いにしえ夢語り蜀錦の庭言の葉つづり




―― 冬の蝶
<あとがき>


ずっと書きたいと思っていた「空を舞う鳥のように」の続編、関平と孫尚香の恋の行方を、ようやく書き上げることができて、ほっとしています。
二人の立場はいうまでもなく、主君の奥方と家臣であり、たとえどのような感情の交流があったとしても、決してそれを表に出すことは許されません。
もちろん二人ともそんなことはよく分かっていたはずですから、あくまでも相手に悟られてはならない「忍ぶ恋」です。お互いに相手を愛しいと思いながらも、その気持ちを相手に伝えることなく、自分ひとりの胸のうちに秘めて……。
そんな切ないシチュエーション、ストイックな恋こそが、関平にはふさわしいのではないかと思うのです。
尚香は、劉備が白帝城で死んだ後、長江に入水して死んだという話があり、呉へ帰ってきてからも、劉備のことを愛していたのだろうといわれています。
親子ほども年の離れた、しかもまるっきりの政略結婚であっても、そして一緒に暮らしたのがほんの短い期間だったとしても、二人の間にはそれなりの愛情があったということでしょうか。
この作品では、尚香は、劉備には父孫堅を、そして関平には兄孫策の面影を重ねています。
荊州で尚香の側にいた男性といって思い浮かぶのは、劉備はもちろんですが(笑)、関羽、関平、趙雲あたりでしょうか。中でも、年齢的に近いこともあって、関平に特別な親しみを覚えるというのも、あながちありえない話ではないかもしれません。
そして今回、重要な役回りで登場するのが、黒い陸遜(笑)。
なんですか、とんでもなく損な設定で、申し訳ないの一言です。とはいえ、決して陸遜が嫌いなのではありません。むしろ、こういう男の嫉妬を表に出せる人ってステキだなと思います。
悲しくて、痛々しくて、書いていて結構感情移入してしまいました。そんな訳で、近頃「黒い陸遜」が密かにマイブームだったりします。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。 (2006/8/17)



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