いにしえ夢語り蜀錦の庭三国志を詠う



父の背中





父上――

あなたと共に
最期のこの時を迎えられる僥倖を
心より感謝します

あなたを父と呼べる幸福は
(血のつながらぬ者としては)
私ひとりに許されたものなのですから


あなたが私を選んでくださったあの日から
「関」の姓をいただいたという
奇跡のような事実だけが 私の誇りでした

たとえ一歩でも
偉大なあなたに近づきたいと
あなたの期待に添える息子でありたいと
常にそれだけを願ってきました

それでも
心のどこかではいつも臆病で
大きすぎる「関」の名に
押し潰されそうだったのです

ただただ生真面目なだけの
自分の器には 到底入りきらぬものを
むりやり押し込めながら

覆い被さってくる不安から逃れるために
あなたの背中だけを見つめて
ひたすらに駆け続けてきました


それが
私にできる精一杯のことでしたから

私は本当に あなたにとって
恥ずかしくない息子でしたでしょうか



義兄弟の契り破れ
敗残の身に縄打たれて 跪こうとも
父上の誇り高き尊厳は
微塵も損なわれてはおりません

たとえ
御身は敵の刃に果てようとも
父上の魂魄は
永久(とわ)にこの地に留まり
世を導く灯火となるでしょう


早すぎる死を悔やまれますか
劉備さまや張飛さまとの約束を果たすことなく
途半ばにして
斃れる悲運をお嘆きですか

私の未熟な問いに
あなたはきっぱりと首をお振りになる
「悔いはない――」と

凛として顔を上げた あなたの双眸は
最期のたそがれを映して
悲しいほど静かに
澄んだ慈しみにあふれている

よくやったと
私をほめてくださるのですね
こんな所で終わらせたくないと
私の死を悼んでくださるのですね


ああ
なんという悦びでしょう

今 初めて
私はためらうことなく
あなたの息子だと胸をはることができます

ようやく
背中ではなく あなたの顔(かんばせ)を
まっすぐに見つめることができます

あなたの息子でよかった


関平
悦んで父上の死出の旅路のお供を仕ります
いざ――





◆◇「父の背中」によせて◇◆

関羽の息子、関平くん。実は語り部の大好きなキャラ(?)だったりします。
関羽の養子というだけで、字も詳らかにはなっていない彼ですが、最期まで関羽に従い臨沮で共に斬られたことで、実の息子たちよりもインパクトは強いのではないでしょうか。

それにしても、ある日突然、偉大な豪傑を父に持つことになったりしたら、本人にとっては相当プレッシャーでしょうね。
さらに劉備、張飛、趙雲……と、父上に負けず劣らずのすごい人たちが大勢周りにいるわけで、そんな中、関羽の息子として恥ずかしくないよう、がんばらなくちゃならないのですから。
大変だったろうなあ(笑)。私だったらきっと、途中で投げ出して非行に奔っちゃうかも。
でも、関平は、自分の置かれた立場に真正面から向き合います。
逃げ出したり、諦めたりすることなく、ただひたすら「関羽の息子」としての矜持を持って生きようとします。
なんて真面目でけなげな関平くん!(涙〜〜)
ほんとに「三国志」一のよくできた息子じゃないでしょうか。

そんな彼の最期の心境を、つたない詩にしてみました。
ちなみに「父の背中」というタイトルは、私のキリリクに答えてよもぎさんが描いてくださったCGからいただきました。凛々しくて、語り部好みのステキな関平くんです。

父の背中だけを見つめて、ただ一心に駆け続けた生涯。
尊敬する父の息子として、その人と共に死ねるのだから、死に臨んで彼の心には一片の曇りもなかったことでしょう。
それでも、やっぱり悲しいですね。
恋も人生も、まだまだこれからなのに。果てしない夢と希望に満ちた未来があったかもしれないのに。
できることなら生き延びて、もっともっと(姜維らと共に)活躍してほしかったと、若すぎる死が惜しまれてなりません。




よもぎさんからいただいた関平くんのCG「父の背中」
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BGM 幻は灰となり/From「遠来未来」

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