――春の嵐 初めて会ったときから、その人は強いまなざしで私を見ていた。 あなたが視線にどんな意味を込めていたのか、私には知る術もない。 ただ、燃える眸子の力に吸い込まれてしまいそうな、自分の危うさが怖かった。 この強さがあれば、山を砕き、海を割ることさえ可能だと、あなたの眸子は無言の意志を放つ。 そして、全身で私を魅惑する。 (お前も、強くなりたいか?)と。 あらがえない――。あなたのまなざしには。 思えば最初から、あなたの強さに圧倒されていたのだ。 すべての花弁を一夜のうちに吹き散らす春の嵐のように、あなたは一瞬で、私からすべての自制を奪ってしまった。 憧れは、やがて焦がれに変わる。 私が、ひとときも欠かさずあなたの姿を追うように、あなたにも私だけを見つめてほしい。 ひとことでいい。私だけに語りかけてほしい。 焦がれれば焦がれるほど、求めれば求めるほど、あなたは遠ざかってしまう。 ――強くなりたい。あなたに認めてもらえるほどに。 今のままでは、春の嵐に吹き飛ぶ花びらのように、たどり着く先が見えないから。 春の夜のまぼろしのような日々は瞬く間に過ぎ、やがて、あなたたち主従に出立の日が迫る。 私はずっと怯えていたのだ。世間知らずの少女のように。 あなたが、手の届かぬところへ行ってしまうことを。 黙ったまま、私を置き去りにしていくことを。 けれど、私に何ができただろう。 叫んでも、声にならない。追いすがろうとしても、この手はむなしく空を掴むばかり。 あなたに、 あなたに、 あなたに…… ただひとつの言葉を告げられたなら。想いの丈をこめて。 ――連れていってください! 声なき声は、あなたに届いたのだろうか。 旅立ちの朝、あの日と同じ強いまなざしで、あなたは言った。 「ついてくるか?」と。 私は夢中でうなずいていた。 待っていたのは、このひとこと。 この身を襲う嵐がどれほど激しかろうと、怖くない。散り落ちる先がどこでも、かまわない。 どんな未来も、しっかりと受け止めてみせる。 あなたが、側にいてくれるのなら。 ――了 |
関平LOVE!
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