いにしえ夢語り蜀錦の庭言の葉つづり

Bar ピーチ・ハート
( 番 外 編 )




都会(まち)の喧騒を離れた裏通りに、その店はある。バー「ピーチ・ハート」。
気配り抜群でしっかり者の美形マスター趙雲氏と、ちょっぴり気の弱い天然癒し系のアルバイト姜維くんが切り盛りする、小さなカウンターバー。
さて今夜は、ピーチ・ハートな仲間たちが「千華迷宮」へ出張サービス?



Anniversary…

ここは、闇の語り部・大和千華が棲息する地下迷宮の一室。
語り部は、「いにしえ・夢語り」のサイト開設1周年記念パーティーの準備に忙しい。
やがて、ドアが開き、招待客が姿を見せた。
やってきたのは、バー「ピーチ・ハート」のマスター趙雲、アルバイトの姜維、そして常連客の張飛の3人である。
さあ、パーティーの始まりだ。


:よっ!1周年だってな。おめでとさん。
:おめでとうございま〜す!
:1年間、よくがんばりましたね。これは、ささやかですが、私からのお祝いです。
趙雲マスターが差し出したのは、1本のシャンパン。見るからに高級そうな……。
語り部は、正直あまりお酒に詳しくはない(バーを舞台にした小説を書いているくせに)のだが、マスターが持ってきてくれたお酒なのだから、きっとそれなりにいいモノなのだろうと、期待は膨らむ。
:わ〜〜、みんな、ありがとう!……って、ひとり足りなくない?
:あれ? 孔明さん、まだ着いてないんですか? おかしいなあ。用事があるからって、ずいぶん先に出たのに。
:どこかで迷子になってるんじゃないの。かなり回ってたみたいだし。
:今日は飲みすぎちゃダメ、ってあれほど言ったのに。もう、はしゃぎ過ぎなんだから。
:とりあえず、先に始めようぜ。その、何とか……っていうシャンパンも、早く飲みたいしさ。
:うふふ……。お酒弱いくせに、飲みたがりですね、張飛さんは。
そんなこんなで、孔明を置き去りにしたまま宴は始まった。

:かんぱ〜〜い!
:わあ〜〜、このシャンパンおいしいねえ。
:ポメリー・キュヴェ・ルイーズ。自社畑の3つのグラン・クリュから獲れたシャルドネを60%、ビノ・ノワールを40%使用し、最良年のみに造られる……。
:はいはい、マスター。薀蓄はその辺にしとこうぜ。どうせ、誰も聞いてないんだから。
:う……。
話の腰を折られ、沈黙してしまった趙雲にかまわず、他の連中は勝手に盛り上がっている。
:ところでさあ、なかなか新作書いてあげられなくて、みんなごめんね〜〜。
:………。
:あれ、どうしたの? 姜維くん。黙り込んじゃって。
:だって……。新作が出るたびに、僕、ヘタレなんですもん。ほんとはもっと強い男なのにィ(泣)。
:いいとこは、みんなマスターにさらわれてるもんなー(笑)。
:それは私のせいじゃありませんよ。文句だったら、作者に言ってもらわないと。
:とか何とか言っちゃって……、内心喜んでるくせに。
:文句でも何でも受けて立つよぉ。それはひとえに、語り部の趣味です、ひいきです。
:ずるいよ〜〜。

:あ、もちろん姜維くんのことも大好きなんだよ。最初の設定では、もっと熱血漢で、いつもマスターをはらはらさせてる、っていう「はっちゃけキャラ」のはずだったの。
:それがどーして、ヘタレになっちゃったんですかぁ?
:う〜ん。やっぱりさあ、青っぽい若いコより、渋い男盛りの方が魅力的だからね。しょうがないじゃんか(開き直り〜〜)。
:しょせん俺たちは、マスターの引き立て役ってことだね。
:まあまあ。その代わりって訳じゃないけど、マスターの秘密を暴く(?)お話とかも考えてるからさ、楽しみにしてて。
張・姜:わあ、ほんとっ?
:はあっ? そんな話、聞いてませんよ。
:当たり前じゃん。逃げられたら困るもの。
:逃げ出したくなるような話なんですかっ(汗)?
:楽しみだな〜〜。(わくわく)
:姜維くんの恋物語なんかも、そのうち出ます。
:ええっ? ウソ〜〜!
:ふっふっふ(謎笑)。
:俺は? 俺は?
:……たぶん、ありません(きっぱり)。

そこへ、上半身が隠れてしまうほどの真っ赤なバラの花束を抱えた孔明が登場。
:みっなっさ〜ん、おっ待ったっせ〜〜♪
:おお、やっと孔明サマのご降臨だ。どこで迷ってたの?
:実は入り口が分かんなくて……じゃなくて、これを買いに行ってたのよ。はい、私からのプレゼント。1周年、おめでとう〜〜!
:きゃ〜〜!きれいなバラ!すっごいゴージャス!さすがは孔明さんねえ。ありがとう。
その時、孔明の後ろに隠れるようにして立っていた徐庶が、部屋の中に入ってきた。
:あれ、徐庶さんじゃないですか。
:あ、みなさん、こんばんは。
:まあ、徐庶さんまで、お祝いに来てくれたの? うれし〜〜。
:いやあ、偶然外で、入り口が分からなくてうろうろしてる孔明さんに出会ってね。無理やり引きずってこられたんだ。
:ナビ代わりってやつかい(笑)。
:よかったのかね? 私までお邪魔して。
:いいじゃないですか。こういう席は大勢の方が楽しいですよ。
:私はマスターと二人っきりの方がいい〜〜ん♪
奥のソファに陣取った孔明は、さっそく趙雲にしなだれかかる。
:孔明さん、飲みすぎ。イエローカードだよ!
:いいじゃないの、おめでたい日なんだから〜〜ん。
:ほっとけ、ほっとけ。いつもいい思いをしてるんだから、こんな時ぐらいはマスターに働いてもらおうぜ。

:ほんとは、徐庶さんの出番も、もっと作ってあげたいんだけど。
:いいよ、私は。一応、謎の人物ってことになってるしね。
:あんまり出すぎると、神秘性が薄れるってことですな。
:ほんとの所は、いっぺんにたくさんの登場人物が出てくると、作者が書き分けられないからだったりするんだよね。あ、これは内緒だよ。
:姜維くん、聞こえたぞ〜〜。
:え? 僕、何にも言ってませんよ。
:ふ〜ん。作者に向かっていい度胸じゃん。次はもっといじめてあげるから、覚悟しときなさいよ。
:キャーッ。マスター、助けてくださいよ〜〜。
:わ……私は今、我が身を守ることで手一杯なんです(爆)。自分のことは自分でなんとかしなさい!
:ふえ〜ん。やっぱり僕ってヘタレなんだ〜〜。

かくて、迷宮の夜は更けゆく――。


2006/5/5


【あとがき】
サイト開設1周年記念に、本当はもっときちんとしたお話を書きたいと思っていたのですが、どうにも考える時間がなくて……。こんな楽屋オチのような中途半端な企画で申し訳ありません。
ちょこっとネタばらししている趙雲マスターのお話や、姜維くんの恋物語?など、これから書いていきたいと思っています。いつ出来上がるかはさだかではありませんが(笑)。
うちのサイトの唯一のオリキャラというべき「ピーチ・ハート」の仲間たちを、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。


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