いにしえ夢語り浅葱色の庭言の葉しずく



願 い(平助くんへ…)



花梨です。
今、5月の連休で実家に帰ってるの。
平助くんのことを話したら、父も母もとっても残念そうな顔していたけど、平助くんのためにはこれが一番よかったんだよ、って一生懸命説明したので、何とか分かってくれたみたいです。
だから、安心してね。

……なんて言ったけど。
本当は、私自身が一番心配かもしれない。
強がって、無理して、笑顔で平助くんのこと見送ったのに……。
でも、あれからずっと、心がどこかへ行ったままなんです。
今だって、すごくお天気がよくて、海がきらきら光ってて、風が気持ちよくて、それなのに……。ああ、お正月にこの景色を見たときは、隣にあなたがいたんだ、ってそう思い出しただけで、涙がこぼれてしまうの。
ちゃんと覚悟して別れたつもりなのに、私ってこんなに弱虫で泣き虫で、どうしようもない子だったんだ、って改めて分かりました。
今さら気づいたって遅いんだけどね。

ねえ、平助くん。
あの時、もし、私が泣いてすがって、「帰らないで。私の傍にいて」って頼んだら……。そしたら、あなたは、今もここに居てくれたのかな。
それとも、繋いだ手を離さずに、私があなたと一緒に行けばよかったのかな。
二人でがんばれば、もしかして過去を、歴史を変えることだってできたかもしれない、なんて夢みたいなことを、今も時々考えてしまいます。
結局私は、歴史がどうとか、あなたの志操がどうとか、そんなことばかりにとらわれていて、自分の気持ちを押し込めてしまったんだな、って。
ほんとにこれでよかったのかどうか、今も分かりません。ただ分かっているのは、あなたのいないこの世界は、とんでもなく寂しい、悲しい、ということ。

あれからもうすぐ3ヶ月。私の髪、結構伸びたんだよ。
いつか、平助くんくらいまで長くできたらいいな。
そしたら、自分の影にあなたの面影を見て、また泣くんだろうな……。
何ヶ月経っても、何年経っても、もしかしたら一生かかっても、あなたのことを忘れることなんてできそうにありません。
だから、いっそのことずっとあなたを追いかけていこうと決めました。
大学院へ進んで、もっと平助くんや御陵衛士のことを研究することにしたの。今回の里帰りは、両親にその許可をもらうためなんだ。

いつか、平助くんのことを書きたい。
本当のあなたの姿を、きちんとみんなに知ってもらいたい。
だから、精いっぱいがんばります。
見ていてね。
そして、叶うなら――。
夢でもいい。もう一度。私の上に落ちてきてください。
そうしたら、今度こそ、絶対にあなたを放さないから。

――泣き虫の花梨より

2010/5/5

「薄桜鬼」以来、ずっと新選組と藤堂平助に入れあげていたのですが、その後「三国恋戦記」という乙女ゲーをプレイして、ちょっぴり心境の変化がありました。このゲームは、現代の女子高生が三国志の世界に飛ばされて…という設定なのですが、そこで三国時代の人たちと恋をしたヒロインは、結局元の世界へ戻ることよりも愛する人とともに三国志の世界に残ることを選択するんですね。
もちろん、この「平助くんと私の六十日間」では、平助くんを幕末の世界に帰す、というお約束があるわけですから、同一には語れませんけれど、もしかして、悲恋と決め付けなくてもよかったのかな、もっと違う結末があったのかな…と、何となく花梨に申し訳ないような気持ちになったりしています。(^_^;)
とはいえ、もうこの話はおしまい。長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。