――油小路にて 平助くんの命日に寄せて |
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慶応3年11月18日。 それは「彼」が死んだ日。 晩秋の冷たい雨の中、 私は、彼の最期の地 七条油小路を歩いていた。 ここに、彼の遺骸が横たわっていたんだ。 凍てついた地面の上に。 きれいな顔も、長い髪も、粋な着物も。 何もかもが泥に汚れ、血にまみれて――。 無機質なアスファルト舗装の路地に、彼を悼む面影は何もない。 小雨がけぶる街角は、どこにでもあるありふれた風景。 「平助くん。あなたの魂は今もここにいるの?」 胸の中のつぶやきに、彼が答えてくれるはずもないけれど。 土塀の陰で立ち止まった私は、そっと目を閉じ、耳を澄ました。 私には聞こえる。あなたのうめき声が。 私には見える。あなたの苦痛にゆがんだ顔が。 それでも――。 それでも、あなたは後悔していなかったんだと信じたい。 この日の「死」は、 あなたが自分自身で選んだものだったのだから。 最期の瞬間まで、 男として、武士として、生きようとしたあなた。 誇り高く、勇敢に、戦って散ることを願ったあなた。 ――そのとき。 薄れていく意識の中で。 あなたは微笑んでいたのでしょうか。 あなたが斃れたこの場所に、今、雨は音もなく降り注ぐ。 私の心も、雨に濡れ、にじんで、ぼやけて。 やっと私は、自分が泣いていることに気づくのだ。 もう会えないひとの生涯に思いをはせながら。 言葉もなく立ち尽くす、秋の日の午後。 |
◆◇「――油小路にて」によせて◇◆ |
旧暦11月18日は、藤堂平助の命日です。 今年の命日は、朝から冷たい雨が降っていました。 ああ、なんか悲しいなあ…としんみりしつつ。 以前サイトで連載していた「平助くんと私の六十日間」のヒロイン、花梨の視点で、久しぶりに詩を書いてみました。 <花梨=私>っていうのは、もうここに来てくださっている方にはバレバレなわけですが(笑)、まあそこは大目に見てやってください。 とはいえ、今年もやっぱり戒光寺への墓参はかなわず、ただ遠く油小路に想いを馳せることしかできなかったのですけれど。 もし、またいつか花梨と平助くんの話を書くことがあったら、今度は、二人で運命に立ち向かう話にしたいなあ…なんて思っています。つないだ手を決して離すことなく、どこまでも共に歩んでいく、そんな強い二人の話を、花梨のためにも書いてあげたいですね。 |
BGM 夕影/From「綴り唄」