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バンパイアハンターD




ちょっと前に中古屋さんで、劇場版「バンパイアハンターD」のDVDを買った。以前にレンタルで見て、けっこうお気に入りだったのだけど、新品を買うのももったいないし……と思っていたら、そこそこの値段で出ていたので、即!購入(嬉)。
菊地秀行氏の原作をアニメ化したもので、監督をやっておられる川尻善昭さんの絵、実は昔からかなり好きなのだ。
で、購入したものの見る暇がなくて、テーブルの上に放っておいたら、息子が先に見たらしく「これ、日本語入ってないで」とのたまう。
???
は? んな、馬鹿な!
半信半疑でよくよくパッケージを見ると、確かに「英語/日本語字幕」とある……。
うっそ〜〜〜!
そういえば、この作品海外でも公開してたんだっけ。これはそのバージョンなのか?(日本で公開された映画も英語版だったことが判明。以前に見た日本語版は、どうやらビデオ用のオリジナルバージョンだったらしい)
まあ、いいけど。絵は同じだから…。(T_T)
え〜ん。私って、肝心なところでお馬鹿〜〜!

……というのが、前段のお話。
とはいえ、せっかく買ったんだし、一度はきちんと見なくちゃね、というわけで、風邪をひいて仕事をお休みしている間に、ようやく見ることができた。
体の方はまだ本調子ではなかったのだが、それでもやっぱり面白い! ぼや〜〜っとした頭と体に、喝が入ってくる感じだ(笑)。
原作が菊地さんなので、内容がしっかりしているのは当然なのだが、監督の川尻善昭さんがモロ私好み。退廃的で蠱惑的な絵が、もう〜〜たまりません。
川尻さんの絵を初めて見たのは、(たぶん)劇場版の「妖獣都市」だったと思う。これが、実にツボだったのである。
こちらも菊池さんの原作で、ただし少々大人向け仕様(笑)だったが、何というか画面からにじみ出てくるようなエロスと、おどろおどろしさの向こうにある凛とした美しさに、心底魅せられたものだった。
その後、「魔界都市新宿」や「獣兵衛忍風帖」など、けっこう川尻さんの名前にひかれて見た作品も多い。
中でもこの「バンパイアハンターD」は、絵といい演出といい、画面から漂ってくる雰囲気そのものにすごく川尻さんらしさがあふれた、大好きな作品だ。

物語の舞台は、最終戦争後のはるかな未来。
「貴族」と呼ばれ、人類を支配していた吸血鬼(バンパイア)は、種族として滅びの時を迎えていた。ハンターと呼ばれる一部の人間たちは、地上に残った貴族たちを次々に処刑していく。彼らの中でも最も腕が立ち、伝説的なハンターと呼ばれた男が「D」だ。
そんな彼のもとに、貴族に誘拐された娘シャーロットを救出してほしいという依頼がくる。しかし、別のバンパイアハンターであるマーカス兄弟もまた、同じ依頼を受けていた。
娘を誘拐した貴族マイエル・リンク、その護衛を任されたバルバロイたち、マーカス兄弟、そしてD。それぞれが死力を尽くす戦いの幕が切って落とされた。

登場するのは、吸血鬼はじめ見るも奇怪な人間ならざる者たちなのだが(主人公のDにしても、ダンピールと呼ばれるバンパイアと人間のハーフである)、物語を貫いているのは、貴族と呼ばれるバンパイアと人間の女性との紛うかたなき純愛だったりするわけで……。この切なさ、儚いまでの美しさが、何ともいえず奥深い。
貴族マイエル・リンクは人間の娘であるシャーロットを深く愛しているが、それゆえに愛するひとを自分と同じ運命に引き込むことをためらう。
吸血鬼として永遠の時を生きなければならないことは、耐え難い苦しみであり、そのことを誰よりも彼自身がよく知っているからだ。
このあたりのジレンマは、「ポーの一族」やフランシス・コッポラ監督の映画「ドラキュラ」のテーマにもなっていた。
人は不老不死に憧れるけれど、でも本当に、いつまでも年も取らず、死ぬこともできないとしたら……。自分を取り巻く世界がどんどん変わっていく中で、自分ひとりだけが取り残され、常に愛する者たちの死を見送らなければならないとしたら……。
それは未来永劫に続く責め苦かもしれない。

川尻さんの絵も演出もサイコーで、一瞬たりとも目の離せない緊張感あふれる仕上がりになっている。
もちろん主人公のDのビジュアルもすごくかっこいいのだけど、敵キャラである貴族マイエル・リンクさまが、そりゃあ、もう〜〜! 美しくも恐ろしいのだ(こんな方になら私も血を吸われたいかも……と思ってしまう)。
最後の最後までひねりがきいていて、ストーリーでもビジュアルでも大いに魅せてくれた作品だった。
私は原作を知らないのだが、原作と違うオリジナル部分があったとしても、十分に菊地秀行ワールドの雰囲気を表現していると思う。
日本語版の方も、もう一度見たくなってきたなあ。山寺宏一さんのマイエル・リンクが聞きた〜い!(笑)



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