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新選組 藤堂平助
秋山香乃 著



ずっと前から読んでいた、秋山香乃さんの書かれた平助くんの小説を、ようやく読み終わりました。
こんなに長くかかっていたのには訳があります。
一言で言うなら、「辛かった」のですね――。
丹念に史実を調べておられて、主人公の藤堂平助をはじめ、土方歳三や山南敬助、永倉新八、斎藤一、伊東甲子太郎など、藤堂をめぐる人々の造形も丁寧で、とても好感の持てる作品でした。
それなのに、とても辛いんです。読みながら、非常に胸が痛いというか、あまりにも平助が痛々しくて、つい、読むのがためらわれてしまうのでした。
他の人たちが、皆それぞれ(立場や考え方は違っても)きっぱりと自分の生き方を貫いて立っているのに対し、藤堂一人があまりにも儚くて、か弱くて、とても切なく感じてしまったのです。
こんなふうに感じるのって、私だけなんでしょうか……。

特に、平助が唯一惚れた女性、紀乃との関係が切なかったですね。
紀乃は、島原の遊女です。最初は、ただ行きずりに遊女と客として関係を持っただけでしたが、やがて平助は、本気で紀乃と所帯を持ちたいと思うようになります。
ところが、紀乃の兄を殺したのが平助だということが分かり、ついに二人はそのまま別れてしまうことになるのですが……。
平助の紀乃への思いは、とても深くて真剣なのに、どうしてもそれをストレートに出せないもどかしさ。相手を思いやるあまリ、自分の気持ちを隠して身を引いてしまう平助が、私にはやるせなさすぎて見ていられませんでした。
平助にしても、総司にしても、(実際のところは分かりませんが)とても女性との関わりが淡白というか希薄なイメージがあります。もちろん、彼らが若くして死んでしまったということもあるのでしょうが、どうも、自らそういった関係を持たないようにしていたように思えてならないんですね。
総司は、病だったということもあるでしょうけれど。常に戦いの中に身を置き、明日の命も分からない自分だから、恋などは無縁のものと思い定めていたのでしょうか。
それは、とても潔くて、でも悲しくて――。
今までの私は、平助や総司のそんな悲しさをいとおしく感じていた部分も確かにあったのです。
でも、この小説で描かれる平助の恋は、そんな頭の中で作り上げていた奇麗事など見事に吹き飛ばしてしまうほど悲惨で、正直、読んでいる最中にかなりへこんでしまいました。
どうして、そんなに臆病にならなくちゃならないの?と、私が女だったら、平助に言いたいよ。
男がある日突然、斬られて死んでもいいじゃないですか。それまでの短い日々を、それでもともに暮らした女は、幸せだったと思うでしょう。
どうして、行動に移しもせずに、その前に諦めてしまうんでしょう。彼は。彼らは。
本当は、平助にも、総司にも、今の若者のように普通に恋をして、失恋もして、ごく普通の生活を送らせてあげたいのに。
きっと、そんな選択肢もあったはずだと思うんですよね。
なんだか、無性に悔しくて、腹が立つ……なんて、この作品に当たるのはお門違いだと分かってはいるのですけれどね。(^_^;)

どうして、土方のような男に惚れてしまったのでしょうね、平助は。
もしあの日、土方に出会わなかったら、もっと別の人生があったのかもしれません。
二人が出会ってしまったというそのことが、すべての悲劇の始まりだったわけですが、それでも平助は、その出会いを少しも(自分にとっての)不幸だとは思っていなかったのでしょう。
彼は、土方に引きずられるようにして自分の人生を生き急いでしまったけれど、でも、そのことすべてが、彼が自分自身で選んだ運命だったのですから。
最後に、迷いや後悔ではなく、はっきりと自分の意志で、彼が油小路に立っていたことが、唯一の救いでした。
斎藤さんがいいひとだったなあ。永倉さんも。
伊東甲子太郎がすごく魅力的な人物に書かれていて、ちょっと目からウロコ……でした。でもたぶん、これが実像に近いのだろうと思います。何といっても、平助くんがついていった人なのですから。

作品としては、とてもよかったと思うんですよ。
でも、私的には好きじゃない。作者の、藤堂平助を始めとする新選組への愛情の深さはひしひしと感じられるのですが、読後感があまりにも悲しすぎます。読んでいるうちから、こんなに辛い小説は、ちょっと反則なんじゃないかと思ってみたり。
決して作品の評価が低いわけではありません。
ファンの皆さま、ごめんなさい。えらそーですみません。m(__)m


2009/11/1 (ブログより再録)


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