いにしえ夢語り蜀錦の庭三国志を詠う



誰よりも近くて遠いひと
     −諸葛喬から香蓮へ−



きみの真っ白な笑顔がまぶしくて
ぼくはいつも遠くから見ていた

まっすぐなまなざしに
心の中まで射抜かれそうで
いつもきみの視線を避けていた

二人きりになるのが怖くて
たわいのない世間話ばかりして
時間をごまかしていたんだ

本当はもっと近くから
きみの眸子に語りかけたかった
本当はもっと別の
伝えたい言葉があったのに



あれからいくつもの季節が過ぎ
ぼくの背はきみより高くなった
きみは……本当に綺麗になったね



同じ家で家族として過ごした
懐かしい日々
振り向けばいつも
きみはそこに立っていた
変わらぬ微笑みと優しさで

でも
きみの心に住んでいるのは
ぼくじゃなかったんだ
ぼくと話している時でさえ
きみが追いかけているのは
別のひとの面影だった

天下に並ぶものなき大軍師
天翔る龍 諸葛孔明
ぼくの偉大な義父上



かなわないよ
あのひとには……

そう思ってあきらめてしまったけれど
自分から扉を閉じてしまったけれど

もしもあの時
ぼくの想いをぶつけていたら
略奪するほどの激しさで
きみを求めていたら――

きみは今も側にいてくれたのだろうか
ぼくのためだけに微笑んでくれただろうか



妹のようにあどけなく
母のように温かく
恋人のように愛しいきみ

こんなに近くにいるのに
ぼくの手はきみに届かない
決して

残酷だよ
香蓮……




◆◇「誰よりも近くて遠いひと」によせて◇◆

すみません。またまた訳の分からない詩 第2弾です。
ここに出てくる諸葛喬は、呉の武将 諸葛瑾の次男で、叔父である諸葛孔明の養子になりました。孔明に長らく実子が生まれなかったためです。後に劉禅の姉を娶ったといわれ、将来を期待されていましたが、二十五歳の若さで病死しています。
そして香蓮は、拙作「五丈原余話」に登場する架空の女性で、孤児であったのを孔明に引き取られ、後に姜維の妻になるという設定です。
ということで、ふたりはひとつ屋根の下で何年かをともに過ごしているんですね。そんな中、当然の成り行きとして(?)喬は香蓮に淡い恋心を覚えるのですが、香蓮の方はというと、密かに孔明に対して家族以上の想いを抱いていて、喬のことなどまったく眼中にないといったありさまです(完全なる片思い……ああ)。
このタイトル、実は、いつかお題小説に挑戦してみるつもりでお借りしていたものです。いずれこのシチュエーションで小説を書いてみたいなと思っているのですが……いつになったら出来上がるのやら。
とりあえずモチベーションを高めるための前座(?)として、こんなところでお茶を濁してみました(爆)。



BGM Forever Smile/From「TAM Music Factory」

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