I LOVE 新選組

菅野文さんの新選組

◆北走新選組

もう1年以上も前のことになるのですが、当時はまっていた「薄桜鬼」の影響で、頭の中が新選組一色だった私が出会った火に油を注ぐような作品があります。
それは、菅野文さんの「北走新選組」というコミック。
もう、これはダメ! 反則でしょう…というくらい、久しぶりに、マンガを読んでボロボロ泣きました。横に娘がいたにもかかわらず、こらえきれずに声を出して号泣してしまったんです。



「北走新選組」は、文字通り戊辰戦争の中、北へ北へと戦い続けた京都以降の新選組を題材にした短編集で、「碧に還る」「散る緋」「殉白」の3編が収められています。
それぞれ、主人公は野村利三郎、相馬主計、大鳥圭介から見た土方歳三、となっていますが、3作を通して一本貫かれた芯は土方歳三という男の生き様であり、彼ら新選組が何のために戦い、生き、死んだのか、がテーマになっています。
この時期の新選組を主題にした作品というのはめずらしく、それだけに、いろいろと自分の中ではっと気づかされたこともたくさんありました。
近藤勇や沖田総司をはじめ、おなじみの試衛館のメンバーなどはほとんど登場しません。恥ずかしい話ですが、私自身、野村利三郎や相馬主計について、名前を知っている程度の知識しかありませんでした。
それが…。
ページを開いてすぐに「北走新選組」の世界に引き込まれ、我を忘れて読みふけり、もうもう、1話目の野村が死ぬところで涙腺崩壊。(T_T)
その後は息も絶え絶えになりながら、読了しました。
今思い出しただけでも、目頭が熱くなってしまいます。これは絶対、人前では読めないですねえ…。

あまりにもかっこいい土方さん。とにかく、菅野さんの絵が美しすぎます。
まなざしが、横顔が、風に乱れた前髪が、背中が…。何もかもが、彼の生き方を語っていて。
――副長、男前すぎですよっ!
今まであまり取り上げられなかった函館での新選組。
組織としての新選組は、鳥羽伏見で終わっていたのかもしれないけれど、この本を読む限り、やはり最後の最後まで、新選組は新選組として、真の武士の集団としてあり続けたのだ、ということがひしひしと胸に迫ってきます。
近藤を失い、何のために戦うのかさえ見失いかけていた土方に、もう一度「生きる」ことを思い起こさせたのは、野村や相馬、島田といった若者たちでした。
一度は崩壊してしまった新選組が、彼らの中では今も厳然とした姿で存在していたのです。
それぞれが己の信ずるもののために戦い、己の信ずるものに殉じる。死ぬために戦うのではない。義に生き、信念を貫くために戦うことこそが、真の武士。
最後の最後に、土方さんの思いが大鳥さんの胸に届いて、ほんとによかったです。彼の生き方を理解してくれる人がいた、というただそれだけのことで、すごく救われた気がしました。

こういう作品を読むと、何よりもまず、その作者さんがいかに新選組を愛していらっしゃるかというその思いの強さが伝わってきてしまい、私などはそれだけで泣けてしまうのでした。
とにかく、久々にマンガ読んで心の底から感動しました…。
菅野先生、すばらしい新選組の物語を、ありがとう!


◆凍鉄の花

それからしばらくたって、菅野さんが描いておられるもう1冊の新選組モノを読みました。
前作「北走新選組」は、めちゃくちゃ涙腺にくるマンガでした。ここしばらく、マンガを読んであれほど泣いたことはなかったんじゃないでしょうか。
というわけで、同じ作者さんの新選組モノということで、ちょっぴり期待して読んでみたのですが…。



う〜ん。何て言えばいいのかなあ…。
確かに面白かったんですよ。ひとつひとつのエピソードや、さりげない情景描写にも、菅野さんの新選組に対する愛情がにじみ出ているようで、副長はあいかわらず反則的にかっこいいし(笑)ね…。
それなのに、どうしてでしょう?
なぜかのめり込めない。感情移入できない。
やはり、主人公である沖田総司の設定が、自分の中ではイマイチ受け入れがたいからかもしれません。
この作品の沖田は、いわゆる二重人格です。ふだんの彼は、土方を兄のように慕い、土方のためなら己の命を盾にすることも厭わない。その一方で、彼自身も気づかない心の奥底に、父親を殺した土方を憎み殺そうとする、冷徹で残忍なもう一人の沖田が存在する…。
という設定が、そもそも私にはどうしてもぴんとこなかったんですよね。
だって、総司が土方さんを殺そうとするとか、いやぁ、いくらなんでも、それはあり得んでしょう。冗談じゃありませんぜ、だんな。…つー感じですかね。(^_^;)

「北走新選組」の方が、あまりにも王道すぎるまっすぐな話だったので、どうしても比べてしまうんですよね。確かに、あまりにも今までに描かれすぎてきた新選組ですから、何とかひねりを加えて違った切り口を見つけたいという作者の気持ちもわかるのですが、やはり私としては、こういう設定は落ち着きません。
土方はあくまでもかっこよく、近藤さんは凛々しく。そして総司はどこまでも純真でまっすぐで…。ありきたりでも、そういう彼らにこそ憧れます。
今回、一番びっくりしたのが芹沢鴨でした。鴨さん、かっこよすぎ!!
前作では、大鳥圭介に対するイメージが変わりましたが、今回は芹沢鴨さんの見方が変わりました。この解釈は非情におもしろいと思います。ある意味、大河ドラマの佐藤浩市さんのイメージにぴったりかもしれないですね。(^^)


何はともあれ、この2冊には、作者である菅野さんの新選組(と副長)に対するあふれんばかりの愛情が詰まっています。
かっこいい彼らに会いたいひとには超オススメ!