I LOVE 三国志

もうひとつの「三国志」


――この命、夢に賭す
 

もうずいぶん以前に見た作品なのですが、映画館でこれを見たとき、結構感動して泣いてしまったんですよ。
決して万人向けの話ではないし、これを真っ正直に「三国志」の映画だと思って見たら肩透かしをくうかもしれません。
でも…。
見終わった後にじわじわくる。無我夢中で戦い、必死に生き、満たされぬままに英雄と呼ばれる生涯を生きねばならなかった男の悲哀が胸に迫り、ああ、なんかこれってすごく三国志やん、と思う。
そんな心に残る映画です。
初出は2009年2月のブログ記事ですが、それを再構成してみました。





近頃は、映画館まで映画を見に行くというということもほとんどなくなってしまいました。
話題になっている作品を、ごくたま〜に家族と一緒に見に行く程度。
そんな私が、めずらしく大阪まで一人で見に行った映画があります。見てきたのは、アンディ・ラウが蜀の英雄 趙雲を演じている「三国志」。
2009年当時、話題沸騰の「レッドクリフ」の影にかくれて、ひっそりと公開された本作。
「レッドクリフ」があまりにも宣伝に金をかけすぎというか、まあそれなりのものすごい大作なわけですが、そのあおりを食ったのか、こちらは全国でも30程度の映画館で上映されているだけ、しかも上映期間はたったの2週間…という、なんとも寂しい状況です。
私が行ったのも、日曜日の1時からという一番客が入りそうな時間であるにもかかわらず、170席あまりの館内は、半分も入っていなかったのではないでしょうか。

もっともこの映画、原題は『三国之見龍卸甲(三国志 龍の復活)』というそうで、ほぼ趙雲の生涯を描いた作品ですから、これに「三国志」というストレートすぎる邦題をつけるのはいかがなものか、とも思いますが…。
むしろ、これは三国志の中でも『趙雲』に焦点を当てた作品なのだということがわかるようなタイトルにした方が、かえってよかったのではないかという気もするのですけれど。
さらに内容的にも、時代設定や歴史的な流れ、登場人物などが史実とはかなり違う展開になっていることなどから、合わない人には全く合わないでしょうし、正統派の三国志ファンの方には受け入れがたい部分があるかもしれません。
ただ、私的にはどうだったかというと、実はこれがすっごくよかったんです。もちろん、主役が大好きなラウさまだということを差し引いてもね(笑)。
若い頃の趙雲がかっこいいのは言うまでもありません。
特筆すべきは、後半、年をとってからの趙雲!
白髪の(三つ編みを後ろにたらした)趙雲の、なんとかっこいいこと!
ラウさまってば、老け役やっても美しいんですね〜。
ラウさま演じる白髪の趙雲は、まさに完璧! パーフェクト! もう、惚れ惚れします。くらくらします。
なんてミーハーはさておき…。少し長くなりますが、オフィシャルサイトで紹介されているあらすじを引用させていただきましょう。


<あらすじ>

戦乱の中国――。絶え間ない争いによって国家は分断されていた。
貧しい家に生まれた趙雲(アンディ・ラウ)は祖国統一の夢を抱き、同じ志を持つ平安(サモ・ハン)と共に、人徳があり民から愛されている劉備(ユエ・ホア)に仕える。彼ら二人は戦場の前線で肩と肩を突き合わせて戦い、互いの絆を深めていくが、ある日、突如軍に参加した孔明(プー・ツンシン)の助言を元に、曹操(ダミアン・ラウ)の基地に奇襲をかけることになる。
その戦いで趙雲は平安の命を救い、しかも敵の前衛隊長を討ち取るが、全ての功績を兄と慕う平安の手柄にし、その結果として平安は、劉備一族の警護という重要な仕事を任されることとなる。

その後、劉備たちは【魏】の曹操率いる10万の兵に攻めこまれる。敵の追跡から逃れる途中、平安は護衛に失敗し、劉備の夫人と子供を見失うという失態を犯してしまう。劉備の義兄弟である関羽(ティ・ロン)と張飛(チェン・チーフイ)は激怒し、彼を殺そうとするが、そこに立ち塞がったのが趙雲だった。趙雲は友を守るため関羽・張飛と互角に渡り合い、自分が平安の代わりに一人で夫人らの救出に向かうと進言する。
感動した劉備は自らの鎧を渡し、家族の救出を趙雲に託す。自殺行為とも取れる趙雲の行動だったが、彼は立ちはだかる何万という曹操軍の中を突破し、無事に嫡子を救い出して劉備の元に帰参する。圧倒的強さを見せ付けられた曹操の孫、曹嬰(マギー・Q)は、趙雲の顔を記憶に焼き付けていた。

趙雲はその武勇によって出世街道を駆け上り、【蜀】の“五虎大将軍”の一人となり、“無敗の将軍”という異名を持つほどになっていた。しかしその一方で、荒れ狂う戦の中、彼の仲間も、主君の劉備さえも次々と命を落としていくのだった。
劉備の息子が【蜀】の国を継ぎ、若い君主を孔明が補佐していた。じわじわと土地が制圧されていくことを懸念した孔明は、【魏】征討を決意する。すでに若くはない趙雲だったが、愛する者のため、そしていまだ果たせぬ祖国統一の夢を胸に、最後の北伐へと出陣する。
【魏】の都督となった因縁の曹嬰と交戦するうちに、趙雲は、自分が関興(ヴァネス・ウー)、張苞が魏へ奇襲するための囮であったことを知る。曹嬰はそれらの作戦を見抜いた上で、常勝将軍と呼ばれる趙雲を倒して蜀の士気を削ぐべく、一騎打ちを申し込んでくる――。





趙雲を取り巻く登場人物たちも、それぞれ個性があって魅力的でした。
特に重要な役回りである平安と曹嬰の二人が架空の人物である、というのは考えようによっては残念な感じもするのですが、三国演義を元にした二次創作だと思えば納得かもしれませんね。
趙雲の副官であるトウ芝が、肉体派で、凛としていて、やたらステキでドキドキしました。←はて、トウ芝って武官だったっけ?という細かい突っ込みは、この際なしということで。
敵役である魏の将軍、韓徳が、なんだかカッコよくてステキに見えたのも不思議ですが、たぶん韓徳は演義の10倍くらい活躍していると思います。後からDVDでこの映画を見た息子が(彼は韓徳ファンなのです)、「あんなに大きく扱ってもらえて、俺もうれしい…」とか訳の分からんことを言ってました。
さらに、どことなく胡散臭げなおっさんの(笑)孔明が、私的にちょっぴりツボだったりして…。
そういう細かいところに、制作者のこだわりというか、三国志愛みたいなものを感じてほくそえんでしまう私。

肝心の内容についてですが、アクションシーンは、さすがに香港映画のお家芸ということで、ど迫力&スタイリッシュでしたねー。けれども、血沸き肉踊るというよりも、全編を通して空しさ・儚さが前面に打ち出された作品だったのか、という気がしています。
三国時代の人たちも、きっと「自分は何のために戦うのか」という自問自答に悩みつつ、必死に毎日を生きていたのでしょうね。
若い方よりも、人生の折り返し点を過ぎた方に見ていただきたい作品です。少なくとも、40代以上の方には、年老いた趙雲の人生に対する慨嘆に、共感を覚えることができるのではないかと思います。
不覚にも、ラスト10分、熱い涙があふれて止まりませんでした。

あまのじゃくな私は、レッドクリフのような正統派大作もそれなりだけど、こういう少し目線の違う作品もなかなかいいじゃん♪などと思ってしまうのです。
誰もがよく知っている三国志の物語をなぞるのではなく、こんなふうに外伝っぽく誰か一人の人物に焦点を当ててみたり、一つの事件をちがった角度からひもといてみたり、そんな多彩な楽しみ方ができるのも三国志の面白いところ(懐の深さ)ではないでしょうか。

私的評価は、気分的には4点くらいあげたいところなんですが、あえて、すべての方にオススメはできないけど、ツボな方には本当にツボかもしれない…ってことで、気持ち的には★4つ、でも一般的な評価としては ★★★ ということにしておきます。


◆「三国志」の公式サイトはこちら

2015/5/5



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