いにしえ夢語り蜀錦の庭三国志を詠う


天翔る龍を見よ





丞相
私はいつか……
あなたを 超えられるでしょうか



そんな大それたことを
かりそめにも思い描こうとは
何という不遜
何という思い上がり


あなたを超えるなど――


同じ地平に立つことすら
願うだに恐れ多いのに



どれほどこの手を伸ばしても
あなたの高みには届かない
わかっている そんなことは


あなたの魂は 常に
輝かしいオーラに包まれて
その存在は 神のごとくに光り輝く


あなたの志は 叡智の翼を広げ
私など夢見ることも叶わぬ
遥かな天の彼方へと翔けていく



けれど


許されるのなら
その高みを あなたとともに目指したい
ほんのわずかでもいい
あなたの飛翔の 力添えとなりたい


私が今 生きてここにいるのは
あの日あなたが
私に手を差し伸べてくださったから
まっすぐなまなざしで 私の進むべき道を
明らかに指し示してくださったからなのです


その御厚恩に 何としても報いたい
私を生かし 導いてくださった
あなたの期待に応えたい



あなたこそ
私が生涯を賭して追い続ける
唯一の希望
偉大なる天翔る龍


たとえ この手が届かなくとも
この身は 空の高みには至れなくとも


まなざしだけは
いつも あなたと同じ方向を見つめていたい
熱き志だけは
いつも あなたの傍らに添わせていたい



願うことは 不遜でしょうか
身の程知らずの 傲慢でしょうか


私はただ
ほんの少しでも
あなたに近づきたいのです


たとえこの身が塵と化し
魂魄が消し飛ぼうとも
姜 伯約は
最後まで あなたのお側に


――丞相







◆◇「天翔る龍を見よ」によせて◇◆

ただ今連載中の小説「姜維立志伝」のサブタイトルが、実はこの詩と同じ「天翔る龍を見よ」という題名なんですね。
「天翔る龍」とは、もちろん蜀漢の丞相 諸葛孔明のことであり、劉備玄徳から孔明へと受け継がれた大いなる志をも指しています。
その大志を継ぐべく、孔明に見出されたのが、魏から降った姜維伯約でした。
彼は生涯にわたって、孔明の遺志を実現するために粉骨砕身し、文字通り「天翔る龍」を追い続けます。
姜維にとって、孔明とはどのような存在だったのでしょうか。
夢であり、憧れであり、目標であり――。おそらくは、自分を包む世界そのものではなかったかと。
そんな畏敬とありったけの憧れを込めて、姜維のまなざしで語ってみました。



BGM 刹那焦れ/From「綴り唄」