いにしえ夢語り浅葱色の庭讃・新選組


風 花

 


――あ、見て 見て!
  歳三さん
  雪だよ、ホラ!


今年初めて見る雪に
お前は弾んだ声をあげて 子犬のようにはしゃぐ

少し尖った白い頤(おとがい)が
灰色の空をふり仰ぐ

その肩に 髪に
やさしくまとわり落ちる 白い結晶たち

雪は 音もなく舞い降りて
俺とお前を 静寂の中に包み込む


お前は 雪を追いかけ 追いかけ
時折ふり返っては うれしそうに笑う

俺は――
雪なんて嫌いだ

この世に存在した証を とどめもせず
跡形もなく とけて消えてしまうから

雪のはかなさは お前に似ている

今にも神隠しに遭って
目の前から掻き消えてしまいそうな 細い背中
生きている証を 俺の腕の中だけに残して


お前が消えてしまわないように
黙って逝ってしまわないように

片時も目をそらさず
心を離さず
いつも お前だけを見つめていよう

お前が生きた日々は
今も これからも 俺の胸の中にある
忘れようのない ぬくもりとともに




◆◇「風花」によせて◇◆

今頃になって雪なんて、季節外れの詩ですみません。
去年から今年にかけての冬は、本当に寒くて、関西でもけっこう雪が降りました。
ただこちらの雪の多くは、積もるほどではなくて、「風花」の名のとおり、舞い散るように地面に落ちては消えてゆきます。
そのはかなさに、歳三は、総司の命を重ね合わせているんですね。そして、やりきれない想いを持てあましてしまう……といういつものパターン。

それにしても――。
「風花」とはよくいったもので、乱舞する雪はどこか桜吹雪に似ています。
はかないけれど、ひたむきで、まっすぐで、いさぎよくさえある。
土方歳三と沖田総司のふたりに思いをはせるとき、私はいつもこの風景を思い描いてしまいます。
動乱の時代をひとすじに貫いた男たちの熱い生きざまに、乾杯。



BGM いつの日か…/From「TAM Music Factory」

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