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歌舞伎になった三国志


スーパー歌舞伎 新・三国志



スーパー歌舞伎「新・三国志」三部作は、三代目市川猿之助(現猿翁)の手になる新作歌舞伎です。
1999年に第1作の「新・三国志」が上演され、その後2001年に「新・三国志U・孔明篇」、2003年に「新・三国志V・完結篇」が上演されました。この完結篇の上演中に猿之助が倒れ、彼が主演したスーパー歌舞伎は、この作品が最後となりました。
猿之助流の解釈による三国志は、従来の三国志ファンにとってはびっくりするような設定や脚色をまじえながらも、リリカルで感動的なストーリーと迫力満点の演出によって、魅力あふれる舞台に仕上がっています。
私自身は、残念ながら生の舞台を見る機会がありませんでした。後になって、スーパー歌舞伎ファンの友人からテレビ放送された番組を録画したものを見せていただいたのですが、テレビで見てさえ画面からあふれる迫真の舞台に圧倒されたものです。
ブログに書いた三部作の感想を、改めてまとめてみました。






 スーパー歌舞伎 新・三国志



2012年の秋、ネッ友さんに京都でお会いしたとき、CSで放送されていた「スーパー歌舞伎 新・三国志」のDVDをいただきました。
これまで、UとVは見たことがあったのですが、Tだけは話に聞くばかりで見たことがなかったのです。
劉備が女で関羽とラブラブ…っていう設定からして、コアな三国志ファンには受け入れがたいものがありまして(爆)、まあそんなこんなでこれまで敬遠してきたのですけれど。
それでも、昔からの三国志好きの友人が「話はトンデモだけど、3部作の中ではTが一番好き!」と言ってたこともあり、興味はあったんですよね。
それを今回、ようやくきちんと見ることができました。長い間、心に引っかかっていた忘れ物を思い出したような、晴れ晴れとした気分です。

さて、Tのストーリーは、関羽と張飛が男装した若者玉蘭(劉備)と出会い、玉蘭とともに理想の国を作るために戦うが、夢半ばにして倒れる…というもの。
大筋は演義に沿っているものの、あちこち大幅に端折られたり、大胆に改編されたり…しており、心の中で何度も(私の知ってる三国志と違う!)とつぶやきながら見ていました(笑)。
それでも、先入観にとらわれずに見ると、先代市川猿之助さんがこの舞台を通して何を言いたかったかが伝わってきますし、「夢見る力」の素晴らしさ、三国志という世界の奥深さに心から共感できます。
何といっても、玉蘭(劉備)という男装の麗人を演じる市川笑也さんの美しさ!気高さ! 本当に感嘆しました。
タカラヅカでの男装の麗人(たとえばオスカル)はそのままですけれど、歌舞伎では、実際には男性が「男装している女性」という役を演じるわけですから、微妙に難しいですよね。でも、笑也さんの劉備は全然違和感がなくて…ほんとにため息がでるほどきれいなんです。
見せ場である夷陵の戦いのシーンでは、本物の水が舞台に滝のように降り注ぐ中、関平が渾身の殺陣を見せます。
他にも、京劇の役者さんが舞台狭しととんぼを切るアクションや、大掛かりな舞台装置は迫力満点だし、お約束の宙乗りもあるし。
最後に、舞い散る花吹雪の中、出演者が次々に舞台に現れて花道を通っていくラストは、タカラヅカのカーテンコールみたいでうっとりしました。個人的には、舞台中では若かった孔明(市川右近さん)が、よく見慣れた五丈原の頃の扮装で出てきたのがツボでした。何と言うか、これぞ孔明!っていう感じがして。いつもながら、右近さん贔屓の私です。(^^)

テレビ放送で見てさえこの迫力、この感動なのですから、実際に舞台を見に行かれた方は、さぞすごかったでしょうねえ。
かく言う私も、(私の知ってる三国志と違う〜〜)と言いながらも、ところどころ目蓋が熱くなりました。ほんと、面白かった。できることなら、実際の舞台を見てみたいものですね。





 スーパー歌舞伎 新・三国志U・孔明篇



引き続き、「新・三国志U」の感想です。
UとVは、以前確かにテレビで見たんだけど、なにしろ大昔の話で、詳しい内容とか忘れてしまってたんですよね。それを最近になって、ネッ友さんから録画したDVDをいただき、再び見ることができました。
今回、改めて見直してみて、やっぱりすごく感動したっていうか、思わず泣いてしまいました。画面はお世辞にもきれいとはいえなくて、残念な画質だったけれど、それでも根っからの蜀好きにはこたえられない感動のストーリーでした。
初めて見たときになぜあんなに心に残ったのか、納得がいきました。

「新・三国志U」の主役は、諸葛孔明です。
劉備亡き後、全身全霊で蜀を支え、魏を討って天下統一を目指しますが、好敵手である司馬仲達を破ることができず、ついに五丈原で帰らぬ人となる…という、まあ少しでも三国志をかじったことがある人なら、知っているであろうお話ですね。
Tは、劉備が女性であるというそもそもの設定からしてビックリ!!!でしたが、今作はそれほどトンデモではありませんでした。まあ、細かいところはいろいろあるんだけど、それもこれもうまくストーリーを組み立てるための改変ということで、全体として見れば非常にうまくまとまっていたと思います。
プロローグは、孔明が劉備に仕えるために、恋人翠蘭と別れ、隆中を出て行くところ(回想)から始まります。孔明は、前途の分からない自分についてきてくれとは言えないし、翠蘭も年老いた親を捨てて孔明と一緒に行くことはできない。いつか孔明の夢がかない、平和な世をつくることができたら、そのときこそここに帰ってきて一緒に暮らそうと、二人は約束をかわすのでした。
しかし、戦に明け暮れる日々、いつまでたっても約束は果たせぬまま、やがて劉備・関羽・張飛らも世を去ってしまいます。遺された劉禅を支えて、南征・北伐と孔明の苦難の日々が続きます。
南蛮征伐で功績のあった馬謖が、北伐の街亭守備で失敗し、泣いて馬謖を斬る、というのも演義どおり。…なんだけど、いやぁ、市川段治郎さん演じる馬謖がやたらかっこよくってねえ〜。これを見たおかげで、馬謖に対する見方がちょっと変わりました。もちろん、いくらかっこよくても、彼の過ちが許されるわけではないけれど。
愛弟子を自分の手で断罪しなければならない孔明の苦しみ、悲しみ。馬謖の思いとあいまって、ここは不覚にも泣かされました。
その前に、姜維が孔明の下に降るエピソードがあるのですが、これは史実とは(演義とも)少し違っています。そのあたりも、あっと驚く展開のための布石なんだけど、市川右近さん演じる金太郎さんみたいな姜維(失礼…笑)が、この舞台ではとても重要なキャストとして描かれていて、今思えば、たぶん私は「そこ」にはまったんじゃないかと思うのですよ〜〜。
孔明が最後の秘策として仕掛けた火計は、魏軍をあと一歩のところまで追い詰めますが、予想外の豪雨によって火は消え、司馬仲達親子は命拾いをします。天の加護は我らにある、と喜ぶ仲達。病に冒され、己の寿命は長くないと知りつつ、それでも夢は諦めないと誓う孔明。
ああ、もう! 分かっていても、切ないなあ。胸が痛いなあ…。(T_T)
五丈原の孔明のもとに、かつて別れた恋人 翠蘭の娘と名乗る春琴が訪ねてくる。翠蘭は、孔明と別れた後、親の意向で魏の武将に嫁いで2人の子をもうけ、5年前に病で亡くなったという。さらに事情を聞くうちに、なんと姜維が翠蘭の息子であることが分かるのです〜〜。
これ、びっくりしたけど、驚くほどストンと胸に落ちましたよ。それでこそ、姜維と孔明の絆の強さがよく分かる、っていうかね。あ、そうきたか〜〜。これはやられました、っていう感じ。
嫁いでまもなく夫に死に別れた翠蘭は、孔明とのことは一切口に出さず、それでもおそらくはずっと最後まで、その面影を胸の内に秘めていたのでしょうね。彼女が子どもたちに伝えたかった熱い志は、孔明の生き様そのものだったのですから。
ところで、なぜ今になって春琴が孔明を訪ねてきたのかというと、祝融が翠蘭の消息を尋ねて探し当ててきた、ということになっています。そう、あの祝融です。ただし、孟獲の妻ではなく、妹という設定。
この祝融さんがとっても素敵な女性で、私的にはたぶんヒロインの翠蘭より好きかも。
演じているのは、市川笑三郎さん。
南蛮征伐に来た孔明を口説きにきて、あっさりふられてしまった祝融は、本当の恋をしろと諭され、本気で孔明に惚れてしまいます。毒矢に冒された孔明を成都までついてきてかいがいしく看病する祝融。孔明がただ一人思い続ける女性の存在を知った彼女は、それでも孔明の側を離れることができません。最後の戦を前に、無理やり祝融を故郷へ帰そうとする孔明。泣きながらその言葉に従った祝融でしたが、故郷へ帰る前に魏に向かい、孔明の思い人である翠蘭の消息を尋ねようと心に決めます。
祝融の本当の恋は、やはり孔明だったのです。自分の気持ちを押し付けるのではなく、相手を思いやり、包み込む愛。「私はすばらしい恋をしました」と孔明への思いを独白する祝融の姿に、女として惚れましたね〜。ここでも、やっぱり涙…。
そして、五丈原で孔明が春琴と姜維の手を取り、翠蘭への感謝を叫ぶところ。
「信じていれば、夢は必ずかなうのだ」と、姜維に後を託して絶命するところ。
もう、涙ボロボロです。猿之助さんのセリフまわし、いつもはあんまり好きじゃないんだけど、この舞台はめちゃくちゃすばらしかったですね。孔明が乗り移ってるというか、いやいや。
前作で劉備を演じた市川笑也さんは、今回は翠蘭と春琴の二役でしたが、なにぶん出番が少なくて残念でした。お約束の宙乗りはありましたけど(笑)。
そして、姜維! なにを置いても!
前作で若き日の孔明を演じていた右近さんが、なんと今回は姜維! 右近さんはVでも姜維を演じておられて、こちらもとってもかっこよかった。
私の思う姜維、私の思う師弟像が(もしかしたらそれ以上かも)、この舞台にはありました。画面を見ながら、いろいろなことが頭の中に思い浮かび、やっぱり泣かされました。

この舞台、再演してくれないかなあ。DVDも販売されてないんですよね…残念。
もし再演されることがあれば、今度は絶対見に行きたいと思います。





 スーパー歌舞伎 新・三国志V・完結篇



先日ネッ友さんたちと「新・水滸伝」の舞台を見に行くオフ会があり、そこで「新・三国志V」のDVDをいただきました。
う〜ん。これは、どうしても、私に「新・三国志」3部作の感想をまとめろという無言のプレッシャーなんだな(笑)。
そんなこんなで、家に帰って、早速見てみたのですが…。
へええ〜〜、こんな話だったっけ?
ヤバイ。ほとんど内容を忘れてしまってる!
今作は、主人公(夏侯謳凌 かこうおうりょう)が架空の人物ということもあって、なんかイマイチストーリーとか頭に残らなかったんですよね。謳凌と春琴のラブシーンとか、最後の猿之助(関羽の霊)の宙乗りとか、テレビで見たはずなのに、全く記憶にないんですけど…。(^_^;)
かすかに覚えているシーンといえば、姜維が燃え落ちようとする成都に向かって駆けていくところだけ。。。ああ、どんだけ姜維が好きなん?>私。

ストーリーは、ほぼオリジナル展開です。
すでに孔明はこの世になく、魏・呉・蜀の三国は、いつ果てるともしれない戦を続けていた。
魏の名将 夏侯謳凌(猿之助)は、兵士たちにも慕われ、幼い帝と皇太后(笑三郎)からの信任も厚かったが、彼を恐れた司馬仲達(金田龍之介)の策略により、倭国へ帰る伊代(春猿)を送っていくという名目で魏国を追放される。
魏を去るにあたり、決して国を奪うことはしない、と仲達に誓わせる謳凌。しかし仲達は、自分は死んだことにして、息子たちとともに恐ろしい陰謀を巡らせ始める。
倭国への旅路の途中、かつて戦場で戦った関平から託された関羽の青龍偃月刀を返すため、蜀に立ち寄った謳凌は、そこで旧友の姜維(右近)に再会する。姜維は桃源台に学問所を開き、乱世の後の新しい国づくりのための人材を育成していた。桃源台に招かれた謳凌は、姜維の妹 春琴(笑也)に出会ってひととき心を通わせる。
その頃魏の都では、ついに司馬氏が謀反。皇太后も自害して果てる。魏国を掌握した仲達は、大軍を率いて蜀へ攻め込んでくる。孤軍奮闘する姜維のもとへ、知らせを聞いた謳凌が駆けつける。本物の水が滝のように降り注ぐ中、右近・姜維の渾身の立ち回り!
やがて魏軍は成都を攻略、桃源台の学問所も火の手に包まれる。書物を守って落ち延びる春琴や書生らに追っ手が迫り、ついに一同捕らえられてしまう。そこに謳凌が現れ、これからの平和な世を造るための宝である書生らを、見逃してくれと懇願するのだが、かつての部下である郭淮は聞き入れず、謳凌は弓で射られて重傷を負う。
しかし、瀕死の謳凌の熱意は魏の兵たちの心を動かし、総大将 鐘会(中村歌六)は書生たちの解放を約束する。春琴の腕の中で息絶える謳凌――。
仲達は三国を統一して晋の国を建てる。
学問所の再建に力を尽くす春琴。新しい世を作るため、各地へ旅立つ書生たち。若者たちの未来を、関羽の霊(猿之助)が天上から見守っている…。

いつもながら、スピーディーな舞台転換と、本物の火や水を使った迫力あふれる演出に驚かされます。長丁場の舞台も、これなら最後まで飽きることなく楽しめますね。
女形の皆さんもほんとにきれいだし。何れが菖蒲、杜若…という感じ。ただ、TやUに比べると、女性の出番が少なくて、Tの劉備(玉蘭)やUの祝融のように印象的な女性がいなかったのが少し残念です。
謳凌は、もしかしたら夏侯覇あたりをモデルにしているのかしら。今、コーエーの「真・三國無双7」を絶賛プレイ中で(笑)、夏侯覇にはちょっと興味があるので、思わずいろいろと思いをめぐらしてしまいました。
また、最後に鐘会が美味しすぎる役どころで、ちょっと笑ってしまった(謎笑)。
三国志も、孔明の死後は登場人物が小粒になってしまう感は否めません。そういう意味での謳凌という架空の人物を主役に据えた構成になったのでしょう。
ただ、三作通してのテーマ「信ずれば夢は叶う」という言葉が、完結編ではちょっと空々しく響いてしまうのも事実なんですよね…。結局…結局、劉備から孔明、そして姜維へと託された「夢」は、最後まで叶うことなく、見果てぬ夢となってしまったわけですから。
登場人物たちのつながりや、劇中使われるテーマ曲、そして三部作を貫く「夢」など、重層的にうまく組み立てられていて、改めて通して見ると、そこに流れるひとつの大きなテーマに感動します。
最後の宙乗りのシーン、実際に舞台を観にいった友人にも聞いたのですが、空一面から桃の花吹雪がこれでもかというくらいに降り注ぎ、圧巻だったそうです。
やはりスーパー歌舞伎は極上のエンターテイメントなんですねえ。




2014/8/15


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