いにしえ・夢語り物置小屋駄文の部屋

イヅモ戦記
  −タケルとスサノオの物語−


◆物語の概要(要するにあらすじ…笑)

はるか古代――。地球上にまだ我々の知っている文明が栄えるずっと以前のこと。
太平洋上にムーと呼ばれる大陸があり、そこでは「イヅモ」の民が平和で豊かな社会を築いていた。イヅモの国を治めるのは、若くして父王の跡を継ぎ、各地の反乱や賊を征討した賢王 タケルノミコトである。
そんなある日、突然イヅモは、宇宙からの侵略者「アーマ」の民の攻撃にさらされる。
アーマの女王アマテラスの弟スサノオは、侵略の先鋒としてタケルに精神憑依することを命じられる。姉である女王アマテラスのために戦うことを義務付けられた王子、スサノオ。彼は、特殊能力を身につけるかわりに、人間として生きることを否定され、感情をも失った冷酷非情な戦闘マシンだった。

スサノオはタケルに向けて「跳ぶ」。
しかし、タケルが強大な超能力者であったため、その抵抗にあい、精神憑依には成功したもののスサノオとしての記憶を失ってしまう。
再び目覚めたとき、スサノオは自分がイヅモの王タケルノミコトとして存在していることを知る。妻クシナの献身的な介護に、生まれて初めて人に愛される安らぎを覚えるスサノオ。だが次の日には、彼は何もわからぬまま、イヅモとアーマの戦闘の場面に投げ出され、イヅモの王タケルノミコトとして戦いの先頭に立たねばならなかった。

そんなある日、アーマ軍の参謀フツがタケルの前に姿を現す。フツの口から自分の正体と使命を聞かされて驚いたタケルだったが、これを契機に徐々にスサノオとしての記憶を取り戻していく。
だが同時に、スサノオが遠い昔に封印されていた過去、さらには消滅してしまったはずのタケルの存在もまた、彼の中によみがえり始めていた。
実は、スサノオは女王アマテラスの弟ではなかった。生まれつき人並みすぐれた憑依能力を持っていた彼は、フツによって幼い頃に家族と引き離され、女王のために戦う戦士として徹底的に仕込まれたのだ。
すべての過去を消され、人間としての感情さえ封じ込まれた――。そんな記憶の断片が、フラッシュバックのようにスサノオの脳裏に浮かんでは消える。

そうするうちにも、アーマ軍の攻撃は激烈さを増していく。
何よりもやっかいなのは、精神憑依攻撃だった。これを防ぐためには、イヅモの超能力者たちの力を結集し、巨大なサイコバリアを張るしかない。
さらに、その力を増幅しバリアを強固なものとするために、クシナはパワーの中心に立ち、その身に秘められた強大な力を解き放つ。
バリアによって「跳ぶ」攻撃を封じられたアーマ軍は、総司令官ニニギのもと、新たな作戦を展開しようとしていた。海底火山を噴火させ、ムー大陸ごとイヅモの国そのものを海底に沈めてしまおうというのである。
再びスサノオの前に現れた参謀フツは、イヅモを護るサイコバリアを破壊するよう迫る。そのためには、パワーの中心にいるクシナを殺さなくてはならない。
神殿の奥深く眠るクシナ。その命を奪おうとしたスサノオだったが、結局手を下すことができず、クシナの姉オロチと神官スクナヒコに押し止められる。

スサノオの苦悩を知ったスクナヒコは、彼の封印された過去、アーマの王子スサノオとしての記憶、そして彼の中にあるタケルの存在を呼び覚ましてやるのだった。
「すべての真実を知り、そしてどうするか、それは自分自身でお決めなさるがよい」
ついにスサノオは、失っていた自分自身を取り戻す。しかし、それはすでに、元来のスサノオと同じ人間ではありえない。
記憶をなくしていた間、タケルノミコトとして強大なアーマの軍勢に立ち向かった彼には、命を賭してともに戦ってくれた仲間がいた。
妻クシナ、無二の親友オロチ、勇猛果敢な将軍オオナムチ、その息子タケミナカタ、神官スクナヒコ、そして自分を信じて死んでいった数多くのイヅモの民たち……。
――この者たちを裏切るのか? お前は、それで平気なのか?
スサノオの内なる声(タケル)が問う。
(平気か、だと。私はアーマの王子だ。姉上のために戦うことだけが、私に与えられた道なのだ――!)
記憶と記憶、意志と意志がせめぎ合い、混乱し苦悩するスサノオ。

そんなある日、東の神殿を護っていたタケミナカタが、ニニギの攻撃を受けて戦死する。
「お前は心を持たないと言ったな。これが、お前の望んでいたことなのか?」
タケミナカタの遺体を前に、スサノオに激しく詰め寄るオロチ。スサノオの乾いた目に涙があふれる。彼の内に、幼い日になくしてしまった「感情」が生まれ始めていたのだ。
――悲しんでいるのか、俺は……。生身を切り裂かれるような、この痛みは何だ?
なぜ、アーマの民はイヅモの人々と共存する道を選ばなかったのだ? 奪い尽くし、殺し尽くすほかに、方法はなかったのか。
(大切なものを失う、こんな思いはもうたくさんだ! クシナやオロチ、そしてすべての仲間たち――。愛するものを守りたい)
こうしてスサノオは、イヅモを守るために、かつての故国アーマと戦うことを決意するのだった。

スサノオの心変わりを知らないフツが、海底火山噴火の計画を伝えるために現れる。
実行は明後日。そのときには、すべての要人を王宮に集めておくようにというのがニニギの指令だった。噴火と同時に、王宮と各地の神殿に一斉攻撃をしかける計画だという。
「王子は、王宮を封鎖してから、母船に保管されているもとの身体にお戻りくだされ。くれぐれも手抜かりなきように」
帰ろうとしたフツに、突然スサノオが跳んだ(宿主を替えたということ)。憑依を解かれたタケルの肉体が、その場に崩折れる。
(タケル……。長い間すまなかった。ふつうならただの抜け殻になってしまうのだが、お前は今もそこにいるのだろう?)
タケルの心が応える。
――ああ。やっと窮屈なところから解放されたな。これからどうするつもりだ?
(このままアマテラスのところに戻り、愛しの姉上に憑依してやる。そして、すべての計画をぶち壊す。だが、念のため、できるだけ早くイヅモの人たちを大陸から避難させた方がいい)
――そうしよう。
(頼んだぞ。それと……。オロチにありがとうと伝えてくれ。あなたのおかげで、スサノオは人の心を取り戻すことができたと)

こうしてフツの姿を借りたスサノオは、アマテラスと対決すべく、アーマ軍の母船に戻るのだが――。
アマテラスに憑依しようとするスサノオ。だが、彼が姉だと信じてきた女王は、実は巨大な精神集積回路(コンピュータ)であり、実体のない立体映像にすぎなかった。
操作端末から侵入したスサノオの意志が、アマテラスの中枢に食い込んでいく。さまざまな妨害と抵抗を排除しながら(コンピュータシステムと精神力との戦いである)、彼はついにその中心に到達する。
最後の扉を開くと、そこには幼い少女の姿をしたアマテラスがいた。ずっと昔、アーマ星が他星から侵略されたとき、父も母も兄弟も殺され、一人残された幼い王女。彼女は、その悲しみと怒りを自分の意志として、コンピュータの中に封じ込めたのである。
これこそ、アーマの人々が絶対的存在と信じた不老不死の女王アマテラスの正体だったのだ。
「でも、もう嫌なの……。戦えば戦うほど、怒りも悲しみも大きくなる。まわり中が怒りと悲しみで埋め尽くされていく――」
「あなたも私と同じだ。本当の己の姿を知らず、暗闇の中でずっともがいてきた……」
――もう、苦しまなくていい。
その手にスサノオがそっと触れると、少女の姿は掻き消えてしまった。スサノオの真情が少女の怒りと悲しみを解き、コンピュータ「アマテラス」への憑依に成功したのだ。

アマテラスの意志となったスサノオは、すべての艦隊に、ただちにイヅモへの攻撃を中止し武装解除するよう命令するが、その前に立ちふさがったのは総司令官ニニギだった。
「だまされるな! 女王は裏切り者スサノオに憑依され、ご自分の意志をなくされたのだ」
「ちがう。これ以上血を流すな! 戦いをやめることこそ、姉上の本当の意志だ」
混乱するアーマの兵たち。その間にも、イヅモを沈没させる計略は着々と進んでいく。
スサノオはついに、命令に従わねば、すべての軍船の制御装置を破壊し、自爆装置を作動させるとニニギに通告。だが、なぜかニニギの旗艦にはアマテラスの支配が届かない。
「ニニギ――。お前はいったい何者だ?」
ニニギもスサノオと同じく、アマテラスに見出され、女王のために戦うことを宿命づけられた人間だった。だが、彼は参謀フツとともにコンピュータ「アマテラス」を利用し、陰でアーマの民を動かしていたのである。
「艦は手動に切り替える。制御できぬものは、艦もろともイヅモの主要施設に体当たりせよ」
ニニギの言葉に操られるように、多くの軍船が地上や海面に落ちて爆発してゆく。
「邪悪な意志だけの存在、あわれなアマテラスよ。もう、女王などいらぬ。今日からは、俺がアーマの王だ!」
ニニギは海底火山爆破を強行しようとしていた。スサノオはニニギを阻止し、最後の決着をつけるため、アマテラスの憑依を解き、本来の身体に戻る。
巨大なコンピュータは、すべての機能を停止し、静かな眠りについた。

その頃イヅモの人々は、オオナムチやオロチに率いられ、ムー大陸を脱出していた。
タケルだけは、神殿に眠るクシナに寄り添っている。イヅモの民をすべて安全な場所に移すまで、クシナはここを離れられないのだ。
(あの方が、戦っています……。わたくしたちのために。とても巨大な力と――)
ムー大陸の上に、無数のアーマの軍船が落下し、自爆していった。バリアは傷つき、クシナの心も激しいダメージを受ける。
(ミコトはもう行ってください。皆にはあなたが必要なのです。最後の瞬間まで、わたくしはイヅモを守ります)
タケルとともに神殿に残っていたスクナヒコは、自分を呼ぶスサノオの声を聞く。
「スクナヒコ、頼む。私をニニギの旗艦にテレポートさせてくれ!」

旗艦に潜入したスサノオとニニギの死闘。
肉体の戦いだけではない。ニニギも強い精神力を持っている。精神憑依攻撃とそれに対する防御、隙を見せた方が負けなのだ。
だが、一瞬のスサノオの隙をついて、海底火山爆破装置のスイッチが押されてしまった。
海底火山の大噴火。ムー大陸を巨大地震と津波が襲う。
海上に逃れたイヅモの民も、多くは波に飲み込まれた。
タケルとクシナの頭上に神殿が崩れ落ちる――。スクナヒコは最後の力をふりしぼり、二人を安全な場所にテレポートさせると、自らは瓦礫の中に消えていった。
スサノオとニニギがぶつかり合う巨大なエネルギーは、旗艦をも破壊する。
爆発の閃光の中で、ついにニニギの意識をとらえたスサノオ。必死に逃れようとするニニギの意識を押さえ込み、スサノオもまた、艦もろとも、ムー大陸とともに海中に没していくのだった。
ニニギの声がスサノオの心に響く。
(俺はすべてが憎かったのだ。アーマ星を滅ぼした奴らも、力弱きゆえに敗れたアーマの民も、俺に戦うことを命じたアマテラスも……。だが、一番憎んでいたのは、こんな俺自身だったのかもしれぬ)
――もう、誰も憎まなくていい、ニニギ。そうだ、これでやっと、私も安らかに眠れる。もう戦う必要もない……。

わずかだが、ムー大陸からはるか離れた土地に逃れたイヅモの民もいた。タケルとクシナの姿も。
数時間後に太平洋沿岸一帯を襲うであろう大津波にも影響を受けない高台に登り、彼らは沈みゆく祖国の方角に目をこらす。
やがて、夜明け前の薄明を切り裂くような閃光と、それに続く衝撃。
「あの方の意識が消えてゆきます――」
「スサノオは我々のために戦い、そして死んだのだ」
朝日が昇り始めた。
タケルもクシナもオロチも、じっと海を染める太陽を見つめている。
これから長い時間、暗黒の時代が地球を覆うだろう。それは、残されたイヅモの人々の、新しい歴史の始まりでもあった。


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