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ホテル・ルワンダ





久々に見た社会派映画です。
昔から、硬派な社会派ドラマは結構好きで、よく見ていました。「キリングフィールド」や「遠い夜明け」などの感動は、今でもずっしりと心の中に残っています。
ですが、あまりにも救いのない重すぎる映画は、見た後もずっとその暗さを引きずって、結構辛いものがあるのも確かです。
その点、この「ホテル・ルワンダ」は、見ている私たちに強烈なメッセージを訴えながら、なおかつエンターティメントとしても一級の作品でした。
すごく悲惨な状況なんだけど、それをただ「残酷に」描写していないのがいいですね。目を背けたくなるような描写は、たとえそれが事実だったとしても、映画というメディアで再現するのはちょっと辛すぎます。
本当に、手に汗握る展開で、最後までハラハラドキドキしっぱなし。最後に救いがあって、本当によかった……。

1994年、ルワンダでは、長らく続いていたフツ族とツチ族の内戦が終息し、和平協定が結ばれようとしていた。外資系高級ホテル、ミル・コリンの支配人ポールは、近くフツ族の民兵によるツチ族の虐殺が始まるという噂を耳にする。やがてフツ族大統領暗殺の報道がなされ、フツ族が武器を手にツチ族を襲撃し始めた。フツ族のポールは、ツチ族の妻・タチアナと息子たち、そして隣人たちを守るため、ホテルに匿うのだが…。

これは、100日間で100万人が虐殺されたルワンダ紛争の中で、1200人もの難民の命を救ったホテルマンの実話なのだそうです。
恥ずかしながらこの映画を見るまで、まだほんの10年くらい前にルワンダでこんな大きな内戦があって、100万人もの人が犠牲になったという事実を知りませんでした。
国連軍は非力。世界の大国は無関心。こんな大きなニュースが、世界中でほとんど報道されなかった、ということがとてもショックです。
孤立無援、たったひとりで1200人の命を救おうと孤軍奮闘するポールのしんどさがひしひしと伝わってきます。
彼も、最初からこんな大勢の人たちを救おうとしたわけではなくて、自分の妻と子どもたちを何とか助けたい、という人間としてごく当たり前の感情から出発しているんですね。それが、近所の顔見知りの人たちになり、ホテルに逃げ込んできた人たちになり……。成り行きでこうなってしまった、というのがかえって人間らしくて共感できたり。
やがて、何組かの家族だけが国外へ出られることになり、ポール一家にも許可が下ります。けれど、大勢の人たちは許可が下りずにホテルに残される。空港へ向かうトラックに乗らなければ、という時、結局ポールは家族と離れて自分ひとりだけホテルに残ることを決断するんですね。
この時、本当の意味でポールの中に純粋な正義感が生まれたのだと思います。ホテルマンとして、人間として、自分だけを頼りにしている大勢の人たちを捨てては行かれないという。
世界中の大国やメディアが、ルワンダを見捨てる中、それでも何とかしてやりたいと尽力する国連軍の大佐や、赤十字の女性など、現地に直接関わっている人たちの思いや、それでもどうしようもないやるせなさなども、うまく描かれていました。
特に印象的だったのは、前半、国連から軍が増援されて、これで助かった!とホテルの人たちが喜ぶシーンです。みんながほっとしたのも束の間、それは、ホテルから外国人だけを国外に退去させるために来た軍にすぎなかったのです。
バスに乗り込みながら、「俺は恥ずかしい!」と怒りに震えるジャーナリスト。せっかく救い出した孤児たちを残していかなければならない神父。それを見送る難民たち。
ここに残ることは、「死」を意味するのです。
肌の色で選別され、去る人と残る人。
どちらの胸にもやりきれない思いだけがあふれます。一番胸にしみたシーンでした。

世界には、私たちの知らないことが多すぎますね。こんな大事件をほとんど報道しなかったマスコミも信用できません。
もっともっと、今世界で何が起こっているかをきちんと見据えていかなければならないのだろうと思います。
本当に、いい映画でした。

(07/2/12 ブログより再録)




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