いにしえ夢語り浅葱色の庭讃・新選組

焔 の 剣
―土方歳三に捧ぐ―

(詠み人 翠蓮さん/BGMも)



お前はまるで焔のような男だと
私はいつも思っていた

周りをめらめらと焼き尽くす
真っ赤な炎ではない

ひんやりと蒼白く
知らぬ者には
それが焔だとは見抜けぬだろう

己が身内に
潜もうとして潜みきれず

白い横顔からも
隙のない立ち姿からも
くつろいだ背中からすらも

その熱さは陽炎のように
ゆらゆらと立ち上る


お前の中の焔は
人を拒みながらも
人を惹きつける

それに一番気づいていないのは
おかしなことにお前自身だ

だからお前は
冷徹な目をして憎まれ役に廻る
私の代わりに

そうやって
いつでも平然と側に控えている

私はお前の鋼の采配の上で
悠然と構える長でいられた

お前だから
安心してすべてを任せられた

感謝していると言えば
おそらくお前は
水臭いと笑い飛ばすのだろう

それとも
照れ隠しに憤慨してみせるか?

お前のささやかな可愛げは
心許した仲間だけが知っている

そして
もしかしたら
焔を持つ者だけが抱く
お前の中の消しきれない孤影も


お前の本当の望みは
何だったのだろう

身分や育ちに拘わりなく
己の力ひとつで
大きなことを果たしたかったのか

それは
私の掲げた夢と重なるものだったのか

誰もが若さの持つ理想に浮かされ
がむしゃらに走り続けた

凄烈な覚悟で築き上げた隊は
私たちみんなの誇りだ

たとえ時代の波が崩し去ろうとしても
決して無様なまま終わらせたくない

そう思って
ここまで自分を鼓舞してきた

だが

すまない
これからその誇りを守るのは
お前に任せる

お前ならば
見事に隊を率いて行くだろう

こんな形で幕を引く私を
どうか許してくれ


時代はまるで
呻き声を上げながら
どんどん転げ回って行くようだ

お前は私どころではない
もっと果てしない展望に
巻き込まれていくのかもしれない

けれどお前は
立ち止まることなどしないだろう

お前の中の焔が
お前を信念の戦いに駆り立てるはずだ

着るものが西洋風に変わり
その手に銃を持つことになったとしても

お前はお前のままだ
昔からの
私が知っているお前だ

遠慮はいらん
思いきり暴れてやれ

私が見ることのなかった明日を
しっかり見据えてくれ

私たちの新選組を
思いこめた「誠」の旗を

今こそ
お前に預ける


いつかもう一度まみえる
その日まで

翔けよ、我が友!

心の中に振りかざせ
美しく燃え盛る
焔の剣を!




◆◇「焔の剣」によせて◇◆

翠蓮さんから、HPオープンのお祝いにいただきました。
近藤さんから土方さんへのメッセージという形で、すばらしい詩を書いていただき、本当に感激です。ありがとうございました。

近藤勇と土方歳三。
同じ武州多摩の百姓の出であり、ともに試衛館で天然理心流を学んだ二人は、互いの夢を擦り合わせるようにして、生涯をともにします。
かれらの夢は、あこがれの「武士」になること。その結実が、「新選組」だったといえるでしょう。
けれども、時代の奔流はあまりにも激しく、かれらの夢もまた、その流れにのみ込まれていきます。

二人が袂を別ったのは、下総流山でした。
鳥羽伏見で敗れ、甲州勝沼で敗れ、江戸を追われた近藤は、もはや、戦い続ける気力をなくしてしまっていました。そして土方もまた、去ってゆく友を引き止めることができなかったのです。
やがて官軍に降った近藤が斬首されたと聞き、土方は、あの日の別れをどれだけ悔やんだことでしょうか。
あれほど夢見た武士の身分を手に入れながら、最期は武士として死ぬことを許されなかった近藤。幼い頃から、同じ夢を追ってきた者だからこそ、土方には、友の無念が痛いほど分かったはずです。
この日から、土方は、自分のために生きることをやめたのだ……と、そう思えてなりません。

託した願い、託された思い……。
近藤とともに描いた夢は、蝦夷の地に果てる最期のその時まで、土方の胸から消えることはなかったと思いたいですね。



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