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Web拍手お礼用





あ、風が変わった――。



雨が降るかもしれませんわ。
早く片付けて、家に戻りましょうか。

畑仕事の手を止めて
妻がつぶやく

屈託のないその笑顔にひきこまれるように
私も明るく微笑み返す



緑したたる初夏の午後
草の匂いのする 少し湿った風は
雨が近いことを告げている

この風のように
いつか 私の世界も変わるのだろうか



いつまでも
この隆中の片田舎で 愛する妻とふたり
穏やかに 静かに暮らしていたい

そう願う心のどこかで
何かを待ちこがれる気持ちが動いている



それは風なのか
あるいは嵐なのか

私はひとり
時を待つ臥龍





4周年記念のSS3作を拍手お礼から下ろした後、代わりのお礼用にと、あわててアップしたのがこちらです。
「詩」と呼べるほどのものでもないのですが、未だ劉備に見出される前の、隆中に晴耕雨読していた頃の諸葛孔明の心境が、何となく新緑の今の時期に似合うかも…と思いまして。
劉備に出会うまでの孔明は、どんな思いで毎日を送っていたのでしょうか。
胸の中にあふれるほどのたぎり立つ「思い」を抱えながら、じっと風を待つ臥龍。
そんな夫を、温かく見守る妻。
やがて訪れる天の時が、二人の運命を大きく変えていくことになるのですが…。このときはまだ、ちょっと青くて優しい時間が、ゆっくりと過ぎていたのだと思いたいですね。

◆加筆したページはこちら→「風を待つ」