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八甲田山
……ひたすら寒い映画





ケーブルテレビでやっていた「八甲田山」を見た。
これ、学生時代に友人が「見たい!」と言うので、一緒に映画館へ見にいったなあ。しっかり前売り券まで買って(笑)。
女子大生が見るにしては、かなり男くさい映画だと思うのだが、なぜ友人はあんなに見たがったのだろう。……もしかして、高倉健ファンだったのか、Rちゃん?
その後も、何度かテレビで放映しているのを見た記憶がある。
一度など、ものすご〜〜く寒い日で、外出先から子どもと凍えそうになって帰ってきて、テレビをつけたら、画面にはこれまた凍死しそうな吹雪の画面が映っている! あの時は、ほんとに芯から寒くなったものだ(笑)。
今回もやっぱり、見ている途中で思わず身体の中から寒くなってしまった。
とにかく全編これ、雪!雪!雪! 雪まみれ、風雪まみれの青白い画面ばかりが印象に残る映画なのだった。

原作は、明治時代に実際にあった事件をもとに書かれた新田次郎の「八甲田山 死の彷徨」である。
来るべきロシアとの戦争に備えて、雪中行軍訓練のために冬の八甲田山に入った青森五連隊と弘前三十一連隊。
この二つの隊が、いかにして片や(弘前三十一連隊)一人の落伍者も出すことなく成功し、片や(青森五連隊)210名中生存者はわずかに12名という、全滅といってもいい状況に陥ってしまったかを、両方の指揮官の立場から丹念に描いた大作である。
弘前三十一連隊の指揮官徳島大尉を高倉健、青森五連隊の神田大尉を北大路欣也が演じている。
二つの雪中行軍隊は、最初から連隊の対面という無意味な競争に翻弄される。特に神田大尉は、(予定外の)大隊本部というお荷物を背負っていくことになり、ために、かれが考えた最良の計画はことごとく変更させられ、行軍中も大隊本部の口出しによって無用の混乱を招くことになるのだ。
青森五連隊が全滅した原因は、さまざまに考えられるが(大隊本部によって指揮系統が乱れたことなど、その最たるものだろう)、結局のところ、冬の八甲田、大自然の脅威を軽く見ていたことに尽きるのではないだろうか。
一方、弘前三十一連隊の徳島大尉は、十分すぎるほどの装備を整え、地元の人間に道案内を頼み、慎重の上にも慎重を期して八甲田に挑む。それほどの用意をしてなお、何度も遭難の危機に立たされたのである。

それにしても、出演者、スタッフ、実際に酷寒の中での撮影は、雪中行軍さながらの苦労があったことだろう。見ているだけで寒いんだもの(爆)。
カメラに素手で触ってしまったカメラマンの手が、カメラに凍り付いて離れなくなった、なんていう恐ろしいエピソードを聞いたことがある。
俳優さんたちの演技もみんなすばらしくて、やっぱり昔の映画俳優さんはちがうなあ、と思ってみたり(今のタレントさんって器用だけど、結局何をやってもバラエティーなんだよね)。
何気に出ている人が、みんな大物でびっくりしたり…。
八甲田を無事に踏破した弘前三十一連隊の人たちも、生き残った青森五連隊の人たちも、結局日露戦争で戦死してしまう、という救いのない話だったけれど……。
当時の日本映画のパワーを、とても力強く感じることのできる作品だった。

(06/2/15 ブログより再録)


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