いにしえ夢語り蜀錦の庭三国志を詠う


遠  雷


 (詠み人 翠蓮さん/BGMも)



   



人は貴方のことを
臥龍とお呼びになる

臥したる龍

それはなんと
のどかな威厳を思わせることでしょう

天地の意にすら
捕らわれることなく

悠々たる自我のまま
眠りを愉しむ龍

人には
そう映るのでしょうか


けれど
私には伝わってくる

泰然とした貴方の
胸の奥に渦巻く様々な思い

迷いや焦燥、落胆

それらを凌駕して
なお激しく轟き渡る夢

貴方を湧き立たせ
また時には
打ち沈ませもする夢


そう
龍は常に
宝玉を追い求め続けるのです

こつこつと積み上げ
研ぎ澄ませ
輝きを増して行く
貴方の才は

今はまだ
誰の手にも
掘り出されてはいない

地中深く息づく
原石のように

どれほど尊くとも
それはまだ
何の価値も発していない


この国の行く末を
誰よりも案じて心を痛める
そんな君主が
どこかにいるはずだと

貴方は祈るように
信じていらっしゃる

風の噂など
当てにはならないと思いつつも

真実を求めて
この辺鄙なる地へ足を運んで下さる
荘厳にして誠実なる御君を

貴方はただ
静かに待ち続けていらっしゃる


それはどなたなのか
どちらから訪れるのか

あえかなる予感は
おそらく
貴方の中に
生まれ始めているのでしょう

私にも
見える気がいたします

いつか
うららかな陽射しの下

門の外にお立ちになる
その御方のお姿が


貴方はきっぱりと
お信じになればいい

ご自分の目を
ご自分の運を

うわべに惑わされることなど
貴方はございませんでしょう

示された道が正しければ
きっと貴方にはおわかりになる

その時こそ
誇らかにつつましく
頷かれなさいませ

穏やかなだけの
仮そめの暮らしなど
未練なく打ち捨てなさいませ


どれほどの苦難が待ちうけようと
その先には
貴方の夢のしるべが瞬いている

天上遥か
さわやかに

たとえ
遠く貴方を想うだけの
日々が来ようとも

私は誰よりも
貴方の誉れある旅立ちを
喜ぶでしょう


龍は
風を得
輝く雲を抜け
大いなる天を翔けるためにこそ在る

お悩みなさいますな

きっとその日が参ります
おそらく
さほど待つこともなく

臥したる龍

その響きの曖昧さに
今しばらくお耐えください


ああ
遠雷が聞こえる

まるで
私の予感を裏打ちするかのように

天が告げている
その日が近いことを

それは
貴方が
手の届かない人になってしまう
日かもしれないけれど

私は
怖れも哀しみもしない

貴方に
ためらいのかけらすら
感じさせたくはない


まっすぐに
志だけを貫いてほしいのです

美しく様を整え
晴れやかに顔を上げて

振り向くことなく
歩き出してほしいのです

その誇らしいお姿こそが
また私の夢でもあるから


私は
待ちわびています
心から

望んでいます
ひたすら

貴方の時が満ちる
その日を





◆◇「遠雷」によせて◇◆

「翠蓮茶寮」のカウンタ7000ゲット記念に、翠蓮さんに書いていただきました。
諸葛孔明の妻は、語り部のオリジナル小説「姜維立志伝」では、桂華という名前で登場します。語り部の考える理想の女性みたいなひとで(う〜ん、男性にとっての理想像、みたいなところは否めませんが…)、私自身とは似ても似つかぬ「よく出来た奥様」です(笑)。
この詩をいただいた時、図々しくも、これはきっと桂華をイメージしていただいたんだなと思って、とてもうれしかったのを覚えています。

さて、演義に出てくる孔明の妻、黄月英。
聡明で、慎み深く、誰よりも夫を理解していた賢婦人だが、しかし美人ではなかった、という注釈が(必ず)付く女性です。
孔明ほどの人が、なぜ、よりにもよってそんな不美人を妻に…?とは誰しもが抱く疑問だったようで、以来、多くの作家がさまざまな解釈を加えてきました。
近頃では「何やかやあったのだが(爆)、本当は美人だった」という新説が急浮上!ゲームの世界(三国無双3・4)でも、すらりと美しい肢体と、凛とした笑顔を見せてくれましたね。

だけど、やっぱり私としては、月英さんは美人じゃなかったという定説にひかれるのです。
実のところ孔明は、月英の父親黄承彦の名声と後ろ盾がほしかっただけ、なんていうひどい説もありますが、決してそんなことはなかったと思いたい。
たとえ美人じゃなくても、内面がステキなひとには、いつか孔明さまみたいな、すばらしい男性が現れるのよ!って思うほうが、なんか元気がわきませんか(笑)。
「顔じゃないよ、心だよ!」っていうのを、身をもって実践してくれた孔明夫妻に、拍手喝采です。
(せっかくのすばらしい詩なのに、コメントの内容が激しく逸脱してしまいました。翠蓮さん、ごめんなさい〜〜) m(__)m



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