今月のお気に入り

ブレイブハート


おそらく私の、生涯のベスト1(今のところ)というべき作品でしょう。
レンタルビデオで見て、LDを買って、メイキング見たさにDVDも買って……。ああ、これほど映画館で見られなかったことが悔やまれる作品はありません!
泣きましたよ、そりゃあもう。
何回見ても、最後はやっぱり大泣きしてしまう。涙腺壊れちゃったんじゃないの?っていうくらい。

もともと、コスチュームプレイというか、歴史物は大好きなのですが、大作っていうふれこみの作品ほど、金はかかっているけど中身は…?というものが多いでしょ。
で、正直それほど期待してたわけじゃないんです。メル・ギブソンっていう役者さんも、あんまり好きでもなかったし。
そんなわけで、借りてきた日にちょっと出だしの部分だけ、と思って軽〜〜い気持ちで見たビデオ。
打ちのめされました(!)。鳥肌……っていうか、背中の毛が逆立つ感じ、といったら分かっていただけるでしょうか。
とても途中で止めることなんてできませんでした。3時間という長い作品にもかかわらず、一気に衝撃のラストまで見てしまっていました。そして、最後はもう、感涙、号泣!(何だろ、この感覚?)って自分でも不思議なくらい、作品の中に同化してしまっていたのでしょうね。

◆作品の舞台とあらすじ
 (かなり激しくネタバレです、たぶん。見ておられない方はご注意ください)

この映画の主人公ウィリアム・ウォレスは、13世紀末、イングランドの圧政に苦しんでいたスコットランドの民衆を率いて反乱を起こした実在の人物である。
当時のイングランド王エドワードT世は、模範議会の召集や司法制度の整備など国政に辣腕をふるった「賢王」として知られるが、一方この映画に見られるように、ウェールズやスコットランドをイングランドの支配下に置くという野心を抱き続けた王でもあった。
1282年、ウェールズ平定に成功したエドワードT世は、次にスコットランドへその侵略の手を伸ばす。1296年、スコットランド王位にあったベリオルを追放すると、2000人のスコットランド貴族、地主らを招集して臣従を誓わせ、ついにかの地を支配下におさめたのだった。
スコットランドに対するイングランドの圧政が強まる中、過酷な支配にあえぐ民衆の中から、忽然と反乱の火の手が上がる。その先頭に立つ男こそ、ウィリアム・ウォレスだった――。

以上が当時の時代背景。
さて、物語は、エドワードT世の謀略によって父と兄を殺された少年時代のウォレスが、伯父に引き取られて村を去るところから始まる。
やがて、深い教養を身につけたくましく成長したウォレスは、故郷の村に帰ってくるが、そこではイングランド領主による苛烈な統治が行われていた。特に、結婚した夫婦に対して領主が持つ「初夜権」は、スコットランドの人々にとって耐えがたい屈辱だった。
ウォレスは幼なじみのミューロンと再会し、深く愛し合うようになるが、「初夜権」を恐れてひそかに二人だけで結婚式を挙げる。だが、その翌日、ミューロンは無残にも領主によって殺されてしまうのだ。
それまでは、戦うことを善しとしなかったウォレスが、ついに復讐の鬼となってイングランド兵に襲いかかった。これをきっかけに、自由を求める民衆たちが次々と蜂起し、ウォレスは彼らを率いるリーダーとなっていく。
スターリングの戦いで大勝利をおさめたウォレスは、騎士に叙せられ、貴族たちの支持をも得るにいたるのだが、諸侯の結束を固めてイングランドに立ち向かおう、という彼の主張は、我が身の保身と領土の拡張だけに汲々とする貴族たちには受け入れられなかった。
そんな動向を見据えながら、スコットランド貴族の懐柔を着々と進めるエドワードT世。
こうして、フォルカークでの大決戦が始まる。ウォレス率いる反乱軍は、当初優勢に勝ち進んでいたものの、スコットランド貴族たちの裏切りによってあえなく敗れ去ってしまう。
さらに、貴族たちのわなにかかりイングランド軍に捕らえられたウォレスは、エドワードT世に対する反逆罪のかどで、拷問の上処刑される……。
しかし、ウォレスによって灯された自由への火は、消えることはなかった。かれの精神を引き継いだロバート・ザ・ブルースに率いられた「スコットランドの子ら」は、
1314年、バノックバーンの戦いに勝利し、ついにイングランドからの独立を勝ち取るのである。
このあらすじをまとめるにあたり、やっぴさんの「やっぴらんど」、cheekyさんの「シネマでUK&Irelandを感じよう」の、「ブレイブハート」のページを参考にさせていただきました。ありがとうございます。

◆すべては愛のために

ストーリーも登場人物たちの造形も、何から何までかなりツボだったのですが、中でも特に心打たれたのが、主人公ウィリアム・ウォレスと妻ミューロンとの深い絆。
映画の出だしの方の場面で、家族を失い深い悲しみに沈むウォレス少年に、そっとアザミの花を差し出す幼い少女がいます。静かで心に染み入るような美しいシーンですが、彼女がミューロンだったのです。
やがて、再会したミューロンに愛を告げ、ウォレスは大切にしまっておいたアザミを彼女に手渡します。からからに乾いて色あせたその花こそ、幼い日にミューロンが差し出したアザミの花なのでした。(それほど、自分のことをずっと思い続けていてくれたのか)と、女性ならばきっと、くらっときてしまうにちがいない憎い心配りではありませんか(笑)。
そういえば、結婚式にミューロンが用意してきたハンカチにも、アザミの刺繍がほどこされていました。アザミの花は、誇り高いスコットランドの象徴として、今でも愛されているのだそうです。
夫婦として過ごしたのは、たった一夜。けれど、その一夜の思い出が、これ以降のウォレスの生き方を決定づけるものになりました。
最後にウォレスが処刑されるシーン。拷問のために意識も朦朧となった彼の目に、群集の中からじっとこちらを見つめるミューロンの幻が映ります。まさに斧が振り下ろされるその瞬間、ウォレスは愛する妻に微笑みかける――。(ここで号泣!)
彼が愛したものは、スコットランドの大地。そして家族、友人、美しい妻。愛するものを守るために、彼はすべてをなげうって闘い続けたのでしょう。

この映画には、ミューロンのほかにもう一人、ウォレスとからむ重要な女性が登場します。フランスから、エドワードT世の息子(皇太子)に嫁いできたイザベラ王女です。
同性愛者であった皇太子(エドワードU世)との結婚は、初めから愛のない政略結婚でした。和平の使者としてウォレスと会見したイザベラは、その一途な生き方に共感し、しだいに深く彼を愛するようになっていきます。
イザベラを演じていたソフィー・マルソーは、気品にあふれ、本当にきれいでした。でも、彼女の存在は、この映画には不必要だったんじゃないかな?
確かに、ミューロンは早く死んでしまうし、その後女っ気がまったくないのは寂しいということだったのかもしれませんが、私としては、ウォレスにとっての女性はミューロンただ一人であってほしかったと思うのです。その方が、ウォレスの最期のシーンも活きてくると思うのだけど……。

◆本当の勇気

この映画にはさまざまな人物が登場しますが、みんなキャラが立っているというか、それぞれ非常にうまく作られていました。(少々型にはまりすぎ、なところもありましたが)
中でも主人公の生き様と対照的なのが、自分の身を守ることと領地を広げることしか頭にないスコットランド貴族たち。彼らは、王位継承をめぐって醜く争い、私利私欲のためにイングランド王の誘いに乗り、平気で仲間を裏切ります。
そんな貴族の一人、ロバート・ザ・ブルースは、ウォレスの清冽な生き方に激しく惹かれながらも、やはり貴族としての身分や対面を捨てきれず、一度はウォレスを裏切ります。この彼の葛藤がいいですね。
何が正義か。何が本当の勇気なのか。
ウォレスは、己の壮絶な死に様をもって、「何者にも侵されない自由な心」の崇高さを人々に訴えたのでした。

ミューロンが結婚式の夜にウォレスに渡したハンカチ(例の、アザミの刺繍をしたもの)。処刑場でウォレスが手に握り締めていたこのハンカチは、彼が絶命する瞬間、地面に落ちる。そして、バノックバーンの戦いで、突撃を号令するロバート・ザ・ブルースの手には、ウォレスの遺品であるハンカチが――。
スコットランドの魂とでもいうべきものを、1枚のハンカチによって、とてもうまく表現されていました。
人は何のために、どこまで強くなれるのだろう。
ウィリアム・ウォレスの凄絶な生き様に、まっすぐな勇気に、感動の涙をそそがずにはいられません。

最後に、映像と音楽の美しさも特筆です。
公開当時は、リアルすぎる戦闘シーンなどが話題になりましたが、私は、前半にウォレスとミューロンが一緒に過ごす場面など、静謐なスコットランドの原野の美しさが心に残っています。
この映画を見て以来、一度でいいからスコットランドを訪れてみたいと、ハイランド地方の雄大な風景に憧れるようになりました。
いつか、エジンバラ城の入り口に立つウィリアム・ウォレスの像に額づける日を夢見て……。
2005/8/1

「やっぴらんど」
「シネマでUK&Irelandを感じよう」

「今月のお気に入り」バックナンバーへ