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亡国のイージス



「亡国のイージス」を先日ようやく見てきた。
重い映画だった。見終わった後、言葉が出てこない。他のお客さんたちも、みんな無言で席を立ち……何となく重苦しい空気だった。
いろいろとツッコミ所も満載な作品(主に脚本に関して)ではあるが、それでも「映画館で見てよかった!」と思う。細かいことはさておき、この映画の作り手さんたち(出演者も含めて)の熱意というか、志のようなものを、非常に強く感じることができたからだ。
「何かを伝えたい!」という思い――もちろんそれは、どんな作品にもあるのだろうが、本作ほど明確に、すべての日本人に向けて真正面から突きつけられたメッセージがあっただろうか。

今の日本はこれでいいのか。
何かが間違ってはいないか。
誰もが漠然と感じていながら、日常生活の中でうやむやにされてきた疑問。
さらに一歩踏み込んで、
こんな日本が真に「守るに値する国家」といえるのか――。

「亡国のイージス」について、右翼とか軍国主義賛美とかいう批判があるが、この程度の内容に、そこまで目くじらを立てる必要があるのかと思う。自衛隊が出てくれば右翼なのか?ガメラやゴジラにだって自衛隊は出てくるのだ。
扶桑社の歴史教科書などと同様、きちんと内容を知らずして「批判だけしている」輩があまりにも多いように思える。まさに、こういう輩こそが「亡国」の徒である、というべきだろう。
ずっと以前、「日本沈没」という映画を見たとき、生き残った日本人の行く末が気がかりでならなかった。住むべき国土を失い、守るべき「日本」という国家を失ったさまよえる日本人は、これから先何を拠りどころに生きていくのだろう、と。
今、日本人は、日本という国に住みながら、日本の魂を忘れ、無国籍の海にさまよっている。若き自衛官が残した論文に、現在のこの国(といえるのか?)の危うさが浮かび上がってくるのだ。

作品そのものについては、多くの方がレビューで指摘されているように、原作の消化不良というか説明不足な点が多く、人物の背景などが分かりにくかったのが残念。
私は原作を読んでいないので、如月の母が死んだ原因や、最後の宮津と如月のやりとり(え?この二人って親子なの?)もさっぱり分からなかったし、ヨンファと少女の関係ももうひとつ分かりづらい。
少女といえば、突然降ってわいたような如月との海中のキスシーンは何だったんだろう?謎だ〜〜 (?_?)
思わせぶりなシーンはあっても、はっきりと説明されないままなので、イライラがつのってしまう。もう少し、人間関係をすっきりさせて、本筋にあまり影響がないという伏線はばっさり切るくらいの潔さがほしかった。
原作のダイジェストやエピソードの羅列ではなく、スクラップアンドビルドの手法で、まったく新しいストーリーを構築する、くらいの大胆さがあってもいいのではないか。
原作を読んでいなければ話についていけない、というのでは、そもそもひとつの映画作品として成り立っていないことになる。
このあたりが、皆さんが酷評するゆえんなのだろうなあ。

宮津副長が反乱を起こす動機が、結局は個人的な恨みになってしまっているのもちょっと寂しいし、とんでもないことをおっぱじめた割には、途中でみんな腰砕けになっちゃうのも何だかなあ……。
結局、最後まで自分の信念に妥協しなかったのは、ヨンファと仙石だけ。本当に命をかけて守るべきもの(思想や理想などという抽象的なものではなく、具体的に目に見えるもの)があるかどうか、が男の強さ(しぶとさ?)の違いってことになるのかもしれない。
アクションとかCGとか、ハリウッド映画に比べたらそりゃー落ちるかもしれないけれど、私的には、単なるアクション大作じゃなく、真摯な人間ドラマとして作られていたことにこそ好感を覚えるのである。

何といっても、出演者のみなさんの熱演はすばらしかったと思う。
真田広之、中井貴一、佐藤浩市、寺尾聡の主役4人はもちろん、原田芳雄のどこか味のある首相や、岸部一徳の飄々とした演技もよかった。
初めはまったくすれ違っていた如月と仙石の気持ちが、しだいに近づいていく過程は感動的だったし、ラストシーンはかなり胸にググッときた。
イージス艦のすごさがもっと克明に描写されていたらと思うけれど、それでも、護衛艦同士のミサイル攻撃シーンは、緊迫感があってすごくドキドキした。
本当に戦争になったら……やっぱり怖いなあ。でも、最後まで日本人としての誇りだけは失いたくない、と思うのだけれど。
あらためて、原作を読んでみたいと強く思っている。
(05/9/28 ブログより再録)




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