いにしえ・夢語り物置小屋駄文の部屋

備忘録/創作メモ 1


◆闇の孔明


仄暗き闇の淵より 我を呼び来たるは誰ぞ――。

今はもう抜け殻と化した我に。
何も見えぬ 何も聞こえぬ。
あるのはただ 果てしなく広がる空虚だけ。

玄徳さまがこの世から消えてしまわれたあの時
我の生も終わったのだ。
玄徳さまは 己が命とともに
この孔明の魂も連れ去ってしまわれたのだ。

あなたこそが 我のすべて。
あなたを この世でただ一人の王とするために
我が生涯のすべてを懸けてきた。
それなのに――!

闇の声が呼びかける。
「そなたは裏切られたのだ」


劉備玄徳の死から話は始まる。
孔明の深き絶望。劉備亡き後の世界に、もはや何の希望もない。

彼にとって、劉備こそがすべてだった。
劉備をこの世でただひとりの王にするために、自分のすべてを懸けてきた。
だが、劉備には自らが皇帝になるつもりはまったくなかった。
あくまでも、漢王室の守護者としての立場を貫こうとした。

この二人の微妙な温度差!

孔明は劉備のことが好き!好き!好き!始めて出会った時から。
一度は死んだ自分に、もう一度命を与えてくれた人。
だが、劉備・関羽・張飛の3人と同じようには交われない寂しさを、常に感じている。

関羽・張飛の仇討ちに、私怨で兵を動かし、あげく夷陵で呉に大敗。
病に倒れ、自分を残して義兄弟のもとへ逝ってしまった劉備に対する、暗く深い憤り。
これは劉備への復讐か?

絶望の中で、孔明は劉備の残した国「蜀」を自分の手で葬り去ろうと決意する。
ゆっくりと、目に見えぬように、しかし確実に。

国力を疲弊させ、人材を削り……。
自らは南征北伐に狂奔し、劉禅にはわざと宦官を近づけ、政治への興味をなくさせる。
優秀な官僚をすべて遠ざけ、後継者と目されていた馬謖には、敗戦の罪を負わせて斬罪。
司馬懿は敵役としては、これ以上ないできすぎたパートナーだった。
すべての激務をひとりでこなすような無理を重ねていれば、やがて病魔に冒されるであろうことも、深謀のうちである。

そんな孔明の真意に、ただ一人気づいていたのが、実は魏延だった。
魏延には、なぜ最初、孔明が自分を執拗に排斥しようとしたのか分からなかったが、いつかそれが劉備への深い愛と、その裏返しである自分への嫉妬のためだったと知る。

その日から、魏延は、孔明のために自分の生涯を捧げる覚悟を決める。
どれほど深く相手を思っても、振り向いてもらえぬ者の悲しみを、魏延もまた心に刻んでいたから。
孔明と自分は同類なのだ。
報われぬ想いの矛先を、どこに向けてよいかわからずに戸惑っている…。

孔明は姜維を、自分の復讐を成就させるための後継者として育てる。
自分の身が滅んだ後、蜀を滅亡させる事実上の執行者として。
もちろん姜維は、そんな孔明の真意を知らない。
ただ一人孔明の思いを知る魏延は、孔明の死と共に自分の生きる意味もまた、消え去るのを感じていた。


いつか書いてみたい創作のための備忘録です。
私の中では定番の、「すべてを劉備と蜀のために捧げた孔明」という高潔なイメージを壊してみたくなって考えたもの。
本当にこんなダークな孔明サマを描くことができるのかどうかは、自分でも自信がありませんが(笑)。
魏延が味わい深いヤツな上、一番のキーパーソンになっているのは、「三國無双」で見直した影響かもしれません。
姜維の扱いがちょっぴり難しいかも…。(2/24)