いにしえ・夢語り千華繚乱の庭物置小屋駄文の部屋

備忘録/創作メモ 3


◆平助くんと私の六十日間


その夜、平助くんが私のベッドの上に落ちてきた――。


「私」は、京都の大学に通う女子大生。名前は花梨(かりん)。
実家を離れて、京都市内のワンルームマンションで一人暮らしをしている。
何を隠そう超がつく新選組ファンである私。京都の大学に進んだのも、少しでも彼らの足跡の残る場所に近づきたかったからなのだ。
12月13日の夜、ぐっすり眠っていた私は、突然自分の上に落ちてきた「もの」に驚いて飛び起きた。
――何じゃ、こりゃあ??
ベットの上には、見慣れない格好をしたひとりの若者が……。
「あ、あなた、誰っ?!」
「お前こそ誰だよ?」
「だいたい、ここはいったいどこなんだ? ええっ? 俺、いったいどうしちまったんだ?」

話を聞いてみてびっくり!!
何と、彼は、自分は御陵衛士の藤堂平助だというのだ。
新選組に殺された伊東さん(伊東甲子太郎)の遺体を引き取りに、仲間とともに油小路へ向かう途中なのだ、と。
これって、夢じゃないよね??
こういうのをタイムスリッパ……じゃない、タイムスリップっていうんだ。
じゃ、この人、本当に藤堂さん――?
私がいくら説明しても、平助くんは、この世界が自分たちが生きていた幕末から140年もたった未来だということを納得してくれない。まあ、無理もないけど。
仕方がないので、私は平助くんといっしょに、油小路まで出かけることにした。
あ、さすがに平助くんの格好は目立ちすぎて、このままじゃいくらなんでも外を歩けないから、半年前に別れた彼氏の服を着てもらうことにしたんだけど。
平助くんは、背はそれほど高くない(私と同じくらい)けど、剣術で鍛え上げた肉体はきりりと引き締まっていて、今の洋服を着ても結構似合う。細いだけの元カレなんかより、うんとかっこいい。
ロングヘアーも元結をとって後ろで束ねたら、どこかの芸能人みたいだし。
……な〜んて、浮かれている場合じゃないよ。
外へ出た平助くんは、かなりのカルチャーショックを受けたみたい。想像もできない世界だもの。
でも、目的地の油小路についたときは、さすがに厳しい表情で黙り込んでしまった。ようやく、自分の置かれている状況が、おぼろげながらも分かってきたようだ。

「俺は……走りながらも、まだ迷っていたんだ。本当に、これでいいのか。俺の行く道はこれで正しいのか、って」
彼は、苦しそうにひとつひとつ言葉を選び、迷いつつ話してくれた。
試衛館での楽しかった日々。新選組として生きる中で芽生えた疑問。山南や伊東ら同じ北辰一刀流の仲間たちと、近藤・土方といった試衛館派との軋轢が深まる中での葛藤。……などなど。
そして、あの夜。
知らせを受けて、油小路へ向かう途中、急に雷のようなものに打たれて気が遠くなり、気づいたら私のベットの上だった、というのだ。
「もう、いいじゃない」
「え?」
「難しいことは明日考えれば。今は、考えてもどうにもならないんだし」
「でも俺、これからどうすれば――」
「ここにいていいよ。ずっと、平ちゃんがいたいだけいればいいよ。ちょっと狭いけど、なんとかなるし」
なかなかうんとは言ってくれなかったけど、平助くんもどうしていいのか分からなかったんだろう。
結局、私たちは一緒に住むことになった。
新選組フリークである私の部屋には、そういう関係の本やDVDやゲームやらがいっぱいある。
まずはこれを片付けて、平助くんの目に触れないようにしなくちゃ。誰だって、自分の最期を知りたくはないだろう。
私は、なるべく新選組の(特に油小路以降の)話題は出さないように気をつけた。
こうして、私たちの奇妙な同居生活は、約2ヶ月間続いた。

クリスマス、お正月……。田舎の両親にも平助くんの存在はばれてしまったけれど、まさかかれが過去からやってきた人間だとは、両親も気づかなかっただろう。
大好きな大好きな新選組の藤堂平助と一緒にいられる。私はもう、それだけで有頂天。
平助くんも、次第に現代の平和な生活に慣れ、たぶん私のことを(私の自惚れでなければ)好きになってくれていたと思う。
もうすぐバレンタインデーというある日、彼は知ってしまったのだ。
私が隠し忘れていた1枚のフロッピー。大学のゼミで書いた論文。タイトルは「幕末史の中における油小路事件の一考察」。
いつの間にパソコンの操作ができるようになっていたのだろう。
もちろん、いつかこの日がくることは分かっていた。町にあふれる書物や映像。そんな情報すべてから、いつまでも彼を隔離しておくことなんて、できるはずもない。
平助くんは、私が書いた論文を読んで、油小路事件の顛末を知り、自分があの夜斬られて死ぬことを知ってしまった。
「俺、あそこで死ぬんだ」
「平助くん……」
「左之さんや新八っつぁんが、逃がしてくれようとしたのに、俺は逃げずに戦って、そして死んだんだな」
「あなたは死んでないよ。こうして、ここにいるじゃない。生きてるじゃない!」
「俺、あのとき、まだ迷ってた。一度は同じ釜の飯を食った仲間を、この手で斬れるのか、って」
「もう、いい。もう、いいよ」
私は平助くんにしがみついた。
「もう迷わなくていい。悩まなくていい。あなたは、油小路へは行かないんだもの。こうして、私とこの世界で生きるんだもの!」
涙がどっとあふれてくる。悲しくて、やりきれなくて――。
「もうすぐバレンタインデーなんだよ。私、がんばってめちゃくちゃおいしいチョコ作るから。どうしても、平ちゃんに私のチョコ食べてほしいの!」
平助くんは、そんな私の肩をそっと抱きしめると、やわらかく微笑んだ。
「ごめん。俺、やっぱり行かなくちゃ」
「………!」
「俺の生きる世界はあそこだ。やっと分かったんだ。もう迷わない。仲間が待ってるあの場所に、戻るよ」
長い間、世話になったなと、平助くんは私の手を握ってくれた。
でも、本当に元の世界に戻れるの?
「俺の迷いが、お前の心に呼び寄せられたのかもしれない。だとしたら、迷いを断ち切った強い心で願えば、きっとあの場所に戻れると思うんだ」
「平助くん、死なないで――」
何を馬鹿なことを言っているんだろう、私は。
彼は、平助くんは、死ぬために元の世界へ戻るというのに。
「ありがとう。楽しかったよ」
着物に着替え、腰に刀をさした平助くんは、うんと大人びて見えた。

遠くを見ていた彼が、ふっと笑った――。
そう思った瞬間、平助くんの周りをまぶしい閃光が取り巻いた。
明滅する光の中で、彼の声が聞こえた。
「花梨。お前のこと、忘れない……」
あたりが元の明るさにもどったとき、平助くんの姿はどこにもなかった。



いつか書いてみたい創作のための備忘録です。というより、浮かんだままをとりとめなく綴ったメモ書きかな。
「薄桜鬼」という新選組を舞台にした乙女ゲーをプレーして以来、藤堂平助という人が気になってたまりません。いままではほとんど印象に残らなかった人だったのですが…。
で、ちょっと書いてみたくなりました。しかも、禁断のタイムスリップもの! 我ながら安易だわ;;
おおまかな流れはこんな↑感じになるかと思います。でも、ここにしっかり肉付けしていくとなると、けっこうなボリュームになってしまいそうですね。完成までの道のりは遠い…か?