今月のお気に入り


劇場版アニメ三国志
第二部 長江燃ゆ/第三部 遙かなる大地



残暑厳しい9月は、先月に引き続き、劇場版アニメ三国志の第2弾。第2部「長江燃ゆ」と第3部「遥かなる大地」を取り上げます。まだまだ語り部の熱気は冷めません(笑)。


●第2部「長江燃ゆ」

第1部で呂布を討伐した曹操とともに都へ凱旋した劉備たち。
第2部はここから始まります。
とにかくこの第2部、三国志のキモというか、一番面白くて最大の見せ場である部分を描いており、それだけにストーリー展開はワクワクドキドキ……。もっとも三国志通さんなら、誰しもとっくに知っているお話なのですが(笑)。

曹操の専横は日に日に激しさを増し、帝から曹操を討てという密詔を授かった劉備は、身の安全を図るため袁術討伐を口実に都を脱出。徐州へ戻って反曹操の烽火を上げます。しかし、攻め寄せてくる曹操の大軍に抗しきれず、義兄弟は散り散りに。関羽は劉備の奥方を守るため、心ならずも曹操の軍門に降るのでした。
ここからが、私が大好きな場面です。何とか関羽を心服させようと手を尽くす曹操。それを断り、辛苦に耐えて劉備との義を貫き通す関羽。漢(おとこ)だね〜〜。
白馬の戦いで顔良、文醜を斬って曹操への恩義を返した関羽は、奥方とともに都を去ろうとします。それを黙って行かせてやる曹操の寛大さも立派ですよね。七関を突破し、千里の道を駆けて、劉備のもとへと向かう関羽のひたむきな姿に、やっぱり胸が熱くなってしまうのでした。
ようやく再会を果たした劉備、関羽、張飛の義兄弟に趙雲も加わって(ちょっと登場の仕方が唐突でしたが……笑)、劉表のもとに身を寄せるべく、一行は荊州へと向かいます。
そしてこの地で、ついに劉備は、自分の進むべき道、とるべき戦略を指し示してくれる軍師、諸葛孔明を得るのですが、孔明にとっても、それは長年捜し求めていた、同志であり主君たる人との出会いだったのです。
やがて袁紹を滅ぼし、北部を平定した曹操が、荊州、さらに長江沿岸の呉を攻めるべく南下してきます。
曹操軍の先鋒を、一度は博望坡に撃破したものの、曹操率いる本隊に追いつかれ、劉備軍は長坂坡で大敗してしまいます。劉備の妻麗華は、幼い阿斗を趙雲に託し、井戸に身を投げるのでした。
窮地に陥った劉備軍を救うため、孔明は単身呉に乗り込み、曹操と孫権を戦わせようとします。こうして、三国志上最大の見せ場である「赤壁の戦い」の幕が切って落とされるのです。

三国志最大のヤマ場である赤壁の戦いが、超ド級の迫力で描かれるのはもちろんのこと、そこに至るまでのよく知られたエピソードが、それこそ怒涛のように展開して、息つく暇もありません。関羽千里行、三顧の礼、長坂坡での趙雲単騎駆け、孔明の呉の群臣たちとの舌戦、連環の計、十万本の矢を集め、七星壇に東南の風を祈り……。それはもう、これでもかっ!っていうくらい(笑)。
当然、お話はものすごく面白くて、特に私のような蜀好きにはこたえられない作品なのですが……。なぜか、素直に「よかった」と感動できないしこりが残ってしまう。どうしてでしょうね?
むしろ、何も工夫を凝らさなくても「それなりに」面白くできてしまう原作があるのですから、オーソドックスに作ってこの程度の完成度は当たり前というべきなのかもしれません。
第1部では、劉備たちはもちろんですが、曹操や呂布、陳宮、張遼といった人たちにもスポットが当てられ、それなりに丁寧に描かれていたのですが、第2部ではそのあたりが少々雑になってしまったような感じが否めないのです。
曹操なんてただの敵キャラになっちゃってるし、あまりにも劉備や孔明が持ち上げられすぎていて(目線が偏りすぎていて)、特に周瑜の扱いがひどいなあと感じました。
演義では、孔明の引き立て役を一身に背負っていた感のある周瑜ですが、ほとんどそれをそのままなぞったような無能ぶりで、周瑜ファンじゃなくても「なんだかな〜〜」です。しかも、周瑜の最期のシーンは史実とも演義とも全く違う創作で、ちょっとそれはないんじゃないの?というような展開なんですもの。
この部分があるので、私も周瑜ファンの方にだけはこの作品をお勧めできないんですよね……(爆)。
他にも、趙雲の扱いが軽すぎるとか、徐庶がさっぱり端役になってしまっているとか、いろいろ言いたいことはあるのですが、まあ私情といわれればそうなので、あまり文句はいわずにおきましょう。
でも、せっかく途中まで(関羽千里行のあたりまで)は、本当に第1部の熱さをそのまま引き継いだようなすばらしい出来だったので、なおさら後半のトーンダウンというか脱線がもったいないですね。
やはり、第1部があまりにもよすぎたのかもしれません。劉備たちメインキャラもまだ若かったし、ほんとに熱かったんですもの〜〜(笑)。
とはいえ、前作に引き続いて真正面から「三国志」に立ち向かい、それなりに真摯に作られていた真面目な作品だと思います。作画や演出などのクオリティの高さも維持されていますし。

実は、第2部の主役は関羽なんじゃないかと、私は内心密かに思っています。
前半=関羽、後半=孔明、っていう感じなんだけど、絶対前半の方がドラマとしてはよくできていたように思うんですよね。
桃園の義兄弟の絆の強さについては、作中何度もほろりとさせられるシーンが出てくるのですが、特に関羽のこのくだりは、何度見ても泣けます。あ、関羽に関するシーンでは、なぜか必ず曹操とセットで出てくる張遼もとってもステキなんですよ。
その前半に比べると、後半の主役である孔明さまは、実力は確かに主役級なんだけど、人間的な魅力が少々乏しいのかもしれません。
いえいえ、昔は大好きでした。舌鋒鋭く、並み居る呉の文官たちを論戦でやり込めていく凛々しいお姿。周瑜や魯粛を手玉にとる策士ぶり。あっと驚く十万本の矢を集めるエピソードや、天文にまで精通した鬼神のごとき知謀などなど……。
しかしまあ、こうも鮮やかに決められると、何となく胡散臭さが鼻についてしまうところが無きにしも非ず。何度も言うようですが、特に周瑜の扱いについては、もう少し配慮がほしかったと思います。
ちなみに、この作品に登場する孔明さまの奥様(秀蘭)は、決して美人ではありませんでした。このあたりも演義に忠実ってことです(笑)。

さて、この第2部は、赤壁の戦いの後、荊州を有することになる劉備が、蜀への遠征に出発するところで終わっています。で、第3部の「遥かなる大地」へと続くわけですが、もうここまできてしまうと、三国志もいよいよ終盤という色合いが濃くなってきます。
これまで舞台を彩ってきた主役、脇役たちが、一人またひとりと姿を消していくのがわかっているだけに、見ている方もかなり辛いですよね。
それでもやはり、孔明が五丈原に斃れるまでは、三国志は終わらないわけで……。
忍び寄る一抹の寂寥感を抑えつつ、第3部について筆を進めていきましょう。

●第3部「遥かなる大地」

第3部では、蜀へ遠征した劉備が成都を落とし、荊州と益州を手に入れてついに漢中王となります。しかし、その喜びもつかの間、荊州を守っていた関羽が呉に敗れて斬られ、張飛もまた部下の裏切りによって命を落とします。
蜀漢皇帝となった劉備は、孔明や趙雲が止めるのも聞かず呉に出兵しますが、夷陵で陸遜の火攻めにあって大敗。からくも脱出しますが病に倒れ、孔明に後を託して、白帝城で息を引き取ります。
それからは、孔明の文字通り粉骨砕身の日々。南征北伐と労苦を重ね、いつかその身は病に蝕まれ……。五丈原で司馬懿と対峙を続ける中、ついに陣没して帰らぬ人となるのでした。

この第3部で描かれるのは、英雄たちの「死」です。
ホウ統、関羽、関平、周倉、曹操、張飛、馬良、劉備、曹丕、馬謖、そして諸葛亮――。
何と多くの人物たちが、舞台を去っていったことか。
それが歴史の流れである、と頭でわかってはいても、やっぱり悲しいですね。切ないですね。
そんなわけで、第3部については、正直あまり多くを語る気になれません。
しかも、この第3部に関しては、主役は鳳姫(ほうき)という全く架空の人物で、思いっきり演義からも外れちゃっております。
しかもこの鳳姫っていうのが、何と関羽の娘!っていうからびっくらこくじゃありませんか。もちろん実の娘(隠し子ってことよね?)じゃないんですけどね。そんでもって、女だてらに馬超と互角に戦えるくらい強いっていうんだから、これまたびっくりだっ!(笑)
その後、鳳姫は馬謖と恋仲になるんですが、ご存じのように馬謖は街亭での失策によって断罪されてしまい、鳳姫も孔明のもとを離れて行き……。
残念なことに、我らが姜維はまったく登場しません。その分馬謖のエピソードに力が入ってたからなあ。といって、鳳姫が姜維の代わりっていうわけでもないし。
何となく、全体の展開に釈然としない感じが残る第3部でした。

それでも、関羽が死ぬところや(関平ちゃんもなかなかかっこいいの!出番は少ないけど)、呉から送られてきた関羽の首を前にして、張遼や曹操が過去を回想するシーンなど、非常にうまく作られていて感動した場面もあります(どうも、製作者さんが関羽に強い思い入れをもっておられたのか、という気がしてならないのですが……笑)。
ただ、最後の最後まで鳳姫で引っ張ったのは、なんだかなあという感じですね。そこまで知らん顔で、最後になって突然現れて、孔明の死という危機を救う、という展開もどうも納得できません。
もっというなら、エンディングが、ず〜〜〜〜〜っと鳳姫が馬で駆けているシーンだけだった、というのがものすごく不満なんですけど。あそこは絶対に、これまでの名場面を流すべきですよ。それでこそ3部作のエンディングにふさわしいと思うんですが。あれじゃ、全くの手抜きじゃありませんか。
あは〜〜。やっぱり文句ばっかりになっちゃうなあ。「今月のお気に入り」なのに……(爆)。
あえて点数をつけるなら、第1部=10点、第2部=8.5点、第3部=6.5点 ってとこかなあ。

とまあ、不満爆発の第3部になってしまいましたが、それでも私はこの3部作が好きです。
おそらく、これほど真正面から「三国志」のアニメ化に取り組んだ作品は初めてだし、これからもこれ以上のものは作れないのではないかと思うからです。
細かい部分ではいろいろと注文をつけたいところもありますが、それでも、これだけ熱意を込めて真摯に取り組んでくださったスタッフ、キャストの皆様に、心から感謝したいと思います。
すばらしい「三国志」を私たちに送り届けてくださって、本当にありがとうございました。
2006/9/1




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