今月のお気に入り


劇場版アニメ三国志
第一部 英雄たちの夜明け



今月のお気に入り、いよいよ劇場版アニメ「三国志」三部作の登場です。
本来は「蜀錦の庭」のエッセイとして書くつもりだったのですが、何といっても語り部の大のお気に入り、三国志関連作品のイチオシでもあり、「今月のお気に入り」として、大々的に(笑)取り上げることにしました。なお、1回では語り尽くせそうにないので、たぶん来月のお気に入りも今回の続きになる予定です。



「三国志」を扱ったアニメは、それほど多くありません。
私の知っている限りでは、横山光輝のコミックをアニメ化したテレビシリーズ、テレビのスペシャル版として放映されたもの(全2作?)、それと東映動画が劇場用として制作した三部作、の3つくらいでしょうか。
横光版は、ファンの方も多いし、それなりに丁寧に作ってあったのだろうと思うのですが、残念ながら見たことがありません。当時、テレビ東京系列のマンガは、奈良では放送していなかったのです。
ただ残念なことに(もしかして、視聴率が取れなかったんでしょうか?)、赤壁あたりで終わっているらしいですね。やっぱり三国志は、最後まで(五丈原の孔明の死まで)いってくれなくちゃね〜〜。いつか、続きを作ってくれるといいんですけれど>テレビ東京さん。
もうひとつのテレビ用スペシャル版は、本放送で見たはずですが、実はあまりよく覚えていないんです。
曹操が金髪だった(!)のと、孔明サマが見事なブルーのアイシャドーを入れていたのが印象に残っているくらいで(最初の登場シーンが露天風呂だったし……笑)、肝心の劉備くんのことはあまり記憶になかったりします。
そうそう、なぜか于禁が女で、曹操に恋心を抱いている、という今どきの同人誌も真っ青な設定だったなあ(爆)。
そして最後に、シナノ企画(東映動画)制作の劇場版三部作。
実は、これこそ我が家の子どもたちにとっては初めてふれた三国志であり、以来、我が家の定番ともいうべき作品になりました。もちろん私にとっても、非常に思い入れのあるアニメで、今でも本当に大好き。
今年の3月に、ケーブルTVのチャンネルNECOで放映されると知ったときは、家中で狂喜乱舞したものです。
でも、すばらしい作品だったわりには、あまり世間に知られていないんですね。
1と2は、結構大々的に劇場公開もしていたはずなのですが、私の周りの三国志ファンの中でも知っている人は少ないようです。
というわけで、マイナーではあるけれど、絶対におすすめできるアニメ「三国志」、8月の太陽よりも熱く(笑)語ってみたいと思います。


主人公はもちろん、というかやっぱり劉備です(笑)。演義をベースにした蜀よりの話で、特に奇抜な設定や目新しい視点があるわけではありませんが、オーソドックスに作られているからこそ安心して見られるし、三国志の入門編として文句なしにオススメできます。
「英雄たちの夜明け」「長江燃ゆ」「遥かなる大地」の三部作のそれぞれが2時間半を超える長編ですが、これだけの時間をかけてはじめて、さまざまなエピソードや細かな人物造詣をていねいに語ることが可能だったのでしょう。
実は、私が最初に見たのは第2部の「長江燃ゆ」でした。意図したわけではなく、たまたまレンタル店で手にしたのがそれで、そのときは前作があることを知らずに借りたのです。
確かにとても面白かったのですが、ひとつ疑問に思ったことがありました。
2作目の最初というのが、呂布に徐州を奪われた劉備が、曹操とともに呂布を討った後(ここまでが第1部)、引き続き都で曹操の下に身を寄せているあたりから始まっていることです。
これは、吉川三国志などを読み親しんできた私には「???」でした。
小説でいうと、まだ2巻(全8巻中)あたりでしょうか? そこまでの話といえば、戦っては負けてばかりいる劉備、一番面白くなくて退屈な部分ではありませんか。だとしたら、第1部っていったいどんな内容だったんだろう?と、ひとごとながら心配になったほどです。
後日、1作目の「英雄たちの夜明け」を見て、私のこの疑問、心配は見事に氷解したのですが……。のみならず、3部作の中でも一番好きな話になりました。
それでは、まずはその第1部から、詳しくご紹介していきましょう。


あらすじ―第1部「英雄たちの夜明け」

黄巾賊の跳梁する荒野を、数十頭の馬を連れて疾駆する若者がいた。若者の名は劉備玄徳(あおい輝彦)。
馬商人の依頼を受けて、無事目的地の県城まで馬を届けた玄徳だったが、その夜、城は黄巾賊の襲撃を受ける。賊にさらわれた県令の娘 麗華(潘恵子)を救い出すものの、馬も報酬も奪われてしまう。故郷へ帰った玄徳に、母は心からのねぎらいの言葉をかけるのだった。
ここからは「演義」でおなじみの展開。
張飛(石田太郎)、関羽(青野武)という二人の豪傑と出会い、義兄弟の契りを結んだ玄徳は、義勇軍として兵を挙げる。各地を転戦し、めざましい活躍をするが、報償として与えられたのは取るに足りない官職だった。それさえ、中央から視察に来た役人の堕落した姿に憤って叩き返してしまう。
こうして玄徳が失意の日々を送っているとき、都洛陽では霊帝の死後の混乱に乗じて、西涼の董卓(滝口順平)が政権を握り、専横を極めていた。
禁軍の司令官だった曹操(渡哲也)は、董卓暗殺を企てるが失敗して逃走。途中、陳宮(家弓家正)に救われるが、曹操の中に潜む残虐性に嫌気がさした陳宮は、袂を分かつ。
故郷へ帰った曹操は、各地の英雄に檄を飛ばし、董卓討伐の連合軍を組織する。
反董卓の旗印の下、続々と結集する英雄たち。そんな中に、劉備、関羽、張飛の3人の姿もあった。
洛陽への要害虎牢関で、連合軍の前に立ちふさがったのは、圧倒的な強さを誇る猛将呂布(津嘉山正種)。劉備たちの活躍でようやく虎牢関は陥落するが、董卓は洛陽に火を放ち、長安への遷都を強行する。連合軍は洛陽に入ったものの、糧食もなく諸侯の意見が対立し、やがて引き上げていった。
民衆の辛苦を憂いた王允は、美女貂蝉を使った連環の計を画策。董卓は呂布によって殺されるが、それでも都の混乱は収まらず、呂布もまた都を追われるのだった。
やがて長安を脱出した献帝は、曹操に庇護を求め、曹操は一躍権力の中枢に躍り出ることになる。
そんな時、父親を徐州の太守陶謙の部下に殺された曹操は、大軍をもって徐州に攻め寄せる。もはや風前の灯火となった徐州に、孤軍救援に赴いたのは玄徳だった。
偶然徐州を救うことになったのは、手薄になった曹操の領地に、背後から攻め込んだ呂布軍だ。あわてた曹操は陶謙との和議に応じ、徐州から撤退する。
病床にあった陶謙は、徐州牧の印璽を玄徳に譲る。そして、そこに現れたのは、遠い日に離れ離れになった麗華だった。ようやく結ばれる二人。
だが、穏やかな日々は長く続かない。曹操に負けて流浪の身となっていた呂布と参謀の陳宮が、玄徳を頼って徐州に現れたのだ。玄徳は呂布を受け入れるが、その温情が仇となり、袁術討伐に出陣している間に、呂布に徐州を奪われてしまう。
窮地に陥った玄徳たちは、曹操の下に身を寄せる。やがて曹操は玄徳を従え、呂布討伐に出陣するが、下ヒ城には玄徳の妻 麗華が人質となっていた……。

ほとんどネタバレで最後まで語ってしまいました。すみません。
さらに、ここには書ききれなかったけど、劉備くんのお母さまのすばらしいエピソードや、曹操と陳宮の二人の葛藤、関羽と張遼の友情なんかも、しっかり盛り込まれています。また、後に重要な役回りとなる諸葛孔明の生い立ちも、要所要所にはさまれていました。
「いったいどんな内容なのよ?」と私が危惧する必要などさらさらなく、本当に熱くて切なくて、いい話でした。
とにかく、劉備がむちゃくちゃかっこいいんだもの(声は「あしたのジョー」だけど……笑)。
ずっと後になって、北方謙三氏の「三国志」を読んだとき、こんなハードボイルドな劉備見たことない!って思ったけど、実際にはこのアニメ版の劉備って、かなり熱くてハードで、そのくせ真っ白でかっこいいヤツだったんですよね。
セリフなんかもマジかっこよくて……。ほんとにもう、ツボでツボで。
若き日の劉備、関羽、張飛の固い友情。世を思い、国を憂い、戦い抜く熱い志。
高く掲げた理想のためにひたすら走り続ける男たちの苦闘が丁寧に描かれ、見終わった後思わず、「ああ〜〜、三国志って本当にええ話やな〜〜!」と叫ばずにはいられないほど、蜀大好きの私にはたまらない作品でした。
第1部で印象に残った登場人物はというと(主役級を除く)、劉備の母上、陳宮、そして張遼でしょうか。張遼はね、本当にかっこいいんです。我が家の息子は、この作品の印象があまりにも強くて、今でも三国武将の中では張遼が一番好きなんですって。


さらに、私にとってこの作品は、とても大切な意味を持っています。
小学生の頃にシバレン(柴田鎌三郎)のジュニア小説版「三国志」に出会って以来、ずっと蜀ファンで通してきた私ですが、あきれるほど長い間ファンをやっていると、当然ながらいろいろと違った部分も見えてきます。
時代とともに歴史上の評価が変わっていく、というのはごく当然のことですし、これまでとは違う視点や切り口の作品が出てくるのも、これまたよくあること。
そんな風に、さまざまなメディアでいろいろな捉え方をされているのを目にしていると、だんだんと自分の中のイメージも変わってきます。何より、自分自身の考え方も変化しているわけですから。
そんなこんなで、一時期、あれほど大好きだった諸葛亮が嫌いになったこともありました。嫌いに……というか、そんなに凄いヤツだったわけでもないじゃん、と斜めから見てみたり。わざと反対側の立場に立ってみたり。
偽善者っぽい演義の劉備は、初めからそれほど好きではなかったので(どうにも胡散臭くて)、三国志そのものの魅力が、何となく自分の中では色褪せてしまったように思えたんですね。
そんな時、この劇場版「三国志−英雄たちの夜明け−」を見たのです。
そこに描かれていたのは、本当に原点に返った三国志、かつて胸ときめかして追いかけた三国志の世界でした。
ああ、そうだ。三国志って、こんなに心から感動できる熱い話だったんだ……と、まさに目からウロコの思いでした。それまで何となくもやもやしていたものが、この作品を見たことですっきりし、好きなものは素直に好きって認めよう!それでいいじゃない、って開き直れたのかもしれません。
私の三国志遍歴を語る上で、この作品はひとつのエポックになったと同時に、原点回帰のきっかけともなった、とてもとても大切な作品なのです。


第1部のラストシーン、呂布討伐の帰途、空を見上げて嘆息する劉備のセリフが印象的です。
「戦っても、戦っても、私は曹操のように天下を動かす力を持てない。桃園の誓いをいつになったら実現できるのか……」
そして、同じ頃、荊州。孔明は友人の徐庶に自分の思いを語ります。
「三人の英雄が、この広い国土を三分して治めれば、無益な争いはなくなるはずだ」
「その三人とは?」
「一人は曹操、一人は呉の孫策――」
「もう一人は?」
「分からん……。だが、きっと出てくる。その人物こそ、私の同志だ」
劉備と諸葛孔明。この二人が運命の糸で結ばれていること、次の第2部でその出会いが描かれるであろうことを予見させる、実に見事な終わり方ではありませんか。
そして、そのシーンにかぶさってくる谷村新司のテーマ曲「風姿花伝」が、またすばらしいんですよ。この曲、ぜひカラオケで歌ってみたいんだけど、めったに入ってないんだなあ(泣)。
とにかく、語り部イチオシの1本。まだ見ていらっしゃらない方は、ぜひレンタルででもご覧になってください。三国志がなぜこんなに長い間、人々に愛され続けてきたか、これを見れば、きっとその訳が分かりますから。
あ〜〜、熱帯夜もかくやとばかり、熱く語ってしまいました。
それでもまだまだ、語り部の熱気はとどまりません。来月は、第2部「長江燃ゆ」について、またまたしつこく語ろうと思います。よろしくお付き合いくださいね。

2006/8/1



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